「あれあれ、ルーカスもレイラ嬢もだんまり?僕のことキライ?あれ?」


ウィリアムがじろじろとルーカスを下から覗き込む。


ルーカスがレイラが倒れないようにぐっと強く腰を支えるが、声は出ない。ルーカスの声が出ないことなんてすでに知っているくせにわざと聞いてくるところが厭らしい兄だ。


ルーカスとレイラはきちんとウィリアムに向き直り、正しい礼をする。挨拶に厳しいウィリアムがうん、そうそうと頷く。


(ここからよ。ウィリアム様とお話するために訓練したのだから、眠がってる場合ではないわ!)


レイラは息を整えて背筋を伸ばし、お腹に力を入れて口を開いた。身体に鞭を打って、さらに前借りを重ねていく。


「ウィリアム様、外交の旅、お疲れ様でした。本日はルーカス様の喉の調子が悪いために、失礼でなければ私がお話をさせていただいてもよろしいでしょうか」

「いいよ?レイラ嬢の声って初めて聞いたね。いい感じ。もっと話した方がいいよ」


レイラを支えてくれるルーカスの腕が温かい。


ヘラヘラ笑うウィリアムに、レイラは第一声がうまくいったことに一度落ち着きたかった。


だが、ウィリアムはすぐにレイラの首に鎌を突き付ける言葉を発した。



「なんかルーカスと仲悪いって聞いたけど、いつ婚約破棄するの?」