あまりにレイラをほめそやすことしかしない公爵にうんざりしたルーカスが、一言の挨拶もなく丁寧に礼だけをしてその場を強引に切り抜ける。礼儀の良いものではないが、身分が高いルーカスがやる分には許される範囲だ。


レイラの変容ぶりに動揺しているルーカスは、ますますモテるレイラに嫉妬が溜まっていく。


エスコートで手を引かれるレイラはすでに目の前が霞み始めていた。だがここで倒れては最も迷惑がかかる。


(ルーカス様としたお約束を、守らなくては)


レイラは意を決してぎゅっとルーカスの人差し指を掴んだ。



疲れて言い出せない時はこうすると約束した。人差し指を握る合図だ。


ルーカスはハッと立ち止まり、青白い顔をするレイラの異常にやっと気がついた。


(やはり無理にがんばっていてくれたのか、俺はまた……見逃した)