レイラの完璧な瞳の端っこがほんの2㎜だけ柔和に下がった。ルーカスはそれをも目ざとく見つける。


彼女からのサインを一つも見逃さないように、ルーカスは彼女をじっと観察すべきだったのだ。


常に真顔の人形令嬢。なんて言われる彼女だが、彼女なりのサインがそこにある。


(これまでも、彼女からのサインを俺が見つけられなかっただけなのかもしれない)


ルーカスは過去の自分を悔いた。


彼女からのサインはきっといつもあったはずなのだ。それを受け取る器量、見つける技術が自分になかっただけ。


ルーカスは自分の恥ずかしさだけでいっぱいで、彼女に歩み寄ろうとしなかった。


彼女はいつも、特別わかりにくいが、彼女なりに歩み寄ろうとしてくれていた。


ルーカスは赤い本を受け取って、顔全体で喜びを表現するように微笑んだ。夕日に照らされた端正な顔立ちがくしゃと潰れて喜ぶ様子にレイラの胸は早鐘を打つ。


(感情がわかりにくいと言われるなら、この正直な鼓動の音を聞いてもらえたらいいのかもしれないわ。きっとこれはわかりやすいはずです)

「何を書けばいいのかわからないな。レイラから書いてくれるか」


赤い交換日記を受け取ったルーカスは、またレイラの手を丁寧にエスコートして王城へと歩き出した。

レイラはコクンと大きく頷いた。


(勇気出してみて、よかったですわぁ!!)


レイラの口角が、またルーカスにしかわからない程度に上がった。