「レイラ……遅くなってすまない。また君を守れなかった」

(こんな突発的な事件に遅いも何もありませんのに)


ルーカスとレイラは明かりがついていない暗い部屋に、二人とり残された。


(ルーカス様に守っていただけたなんて今すぐ死んでしまいそうなくらい嬉しいですのに)


レイラは脳内で返事をしているだけで、口は全くの不動である。


(って、え?!)


ルーカスはベッドの上に乗り上げ、レイラを両腕に閉じ込めて強く抱きしめた。


(えぇえええ!!抱きしめられてますわぁ!)


「まだ始まって初日だぞ。交渉に手間取って初手で遅れるなんて、どこまで愚鈍なんだ俺は……」


レイラをぎゅうと抱きしめたルーカスは、首筋に顔を埋めてブツブツと小声で何か言っている。


(先ほど婚約破棄を告げられたばかりなのにな、なんですのこれはぁ!?)


ルーカスからこんなに能動的で大胆な行動をもらったの初めてだ。


(嬉し過ぎますわ!強盗さんに感謝してしまいますわぁあ!)


レイラの脳内は大興奮だ。だがその顔は、人形のごとくシンプルな真顔を忘れない。


無表情無口が基本のレイラが口を開くことはないので、ルーカスに身を委ねて無抵抗に抱きしめられておく。


(せ、せっかくなので、このまま……!)


いついかなる謎の機会であっても、ルーカスに抱きしめられるなんてレイラにとって本望だ。もっとして。



「こんな体たらくで、俺は……俺は、また君を失うのか……いや、いやいやいや」