エミリアは6月に王太子と式をあげる。ジューンブライドだ。
 そうして6月。
 そうして城下町で夏祭り。結婚の前に夏祭りに出ることとなったエミリアと王太子だった。
 聖騎士団の警護の元、エミリアと王太子は夏祭りに出た。城下町だった。天気はよく、うだるように暑かった。人々が集まってくる。王太子は金髪さらさらヘア碧眼。
 「きゃあ、王太子よお」
 と、若い女性。
 「お姫様もお美しい」
 と、貴婦人。
 エミリアと王太子一行の周りには人だかりができた。
 「さあ、どうしようか」
 と、王太子が言った。
 年配のロマンスグレーで長い髪を後ろで束ねた聖騎士が
 「とりあえず、屋台をまわってみましょう」
 と、言った。
 王太子とエミリアは警護に囲まれながら、屋台を見て回ることにした。王太子は屋台を見て行った。四角い、屋根にルーン文字の書かれた屋台が立ち並んでいた。
 「これが屋台というものか」
 と、王太子。
 「王太子様は屋台を見たことが・・・・・・」
 と、エミリア。
 「ううん、ないのだ」
 「え」
 「今日は胸がきゅんとなっている」
 と王太子。
 「私もです」
 エミリアは言った。
 王太子は歩きながら、金魚すくいに目をとめた。
 「あれはなんだ?」
 見ると、子供が何やら紙を貼ったわっかを持って、きれいな小さい魚をすくおうとしていた。そばに、その子の父親らしき男性がいた。
 「金魚すくいというものです」
 年配の聖騎士は言った。父親が王太子を見て、礼をした。
 「かまわぬ。子供を見ておれ」
 と、年配の聖騎士が言った。
 王太子は子供がやるのを見つめた。
 「あ、破れちまった」
 子供は言った。金魚すくいの紙が破れたのだ。子供はお父さんを見た。
 「お父さん、もう一回」
 「だめだめ、もう終わりにしな」お父さんは王太子を見た。
 「ほら、次は王太子殿下がやられるのだ」
 「あ、いや、かまわぬ」
 と、王太子。
 「ああ、でももういいですよ。お金ないですし」
 と子供のお父さん。
 王太子は年配の聖騎士に向かって言った。
 「あの子の金魚すくいがもっと見たい。代わりに金をはらってくれ」
 「御意」
 「ああ、いいですよ」
 と、子供の父親。
 「王太子のご好意をありがたく頂戴しろ」
 と年配の聖騎士は威厳深くいった。
 「わ、わかりました」
 と父親。
 年配の聖騎士は腰にあるきんちゃく袋を取り、中を探った。そうして金貨を出した。
 「主人、これを」
 と、年配の聖騎士は金魚すくいの店主に金貨を差し出した。
 「こ、これは」と店主。
 「かまわぬ、受け取れ。そのかわり、このこに好きなだけ金魚すくいをやらせるのだ」
 年配の聖騎士は威厳深くいった。
 「は、はい、もちろん」
 店主は金貨を受け取った。
 「ほれ、坊主」
 と、店主はポイという金魚をすくう紙を貼ったものを渡した。
 「あ、ありがとう」 
 男の子は金魚を見つめている。そうしてポイを水の中にいれ、金魚をすくおうとした。紙が破けた。
 「ああ」
 と、男の子。
 店主がポイを男の子に差し出した。
 「ほれ、坊主、何度でも挑戦していいんだぞ」
 男の子はポイを取った。
 「うん」
 男の子はポイを水につけた。そおっと金魚をすくおうとする。金魚がポイの上に乗った。
 「いいぞ」
 と、王太子。
 しかし、ポイの紙はやぶけて金魚は落ちた。
 「ああ」
 と、王太子。
 「めげるな、坊主」
 そう言って店主は子供に新しいポイを渡した。子供は金魚をみつめた。そうしてそおっとポイを水に入れた。金魚をすくった。みなかたずをのんだ。そうして金魚をお椀に入れた。
 「おお」と歓声があがった。
 「やったな」
 と、男の子の父親。
 「よかったな」
 と、王太子。
 「うん」
 と子供。
 「よかったな」
 と、店主。
 「おじさん、これ包んで」
 「え、もういいのか。何度やってもいいんだぞ」
 子供は王太子を見た。
 「王太子、やりなよ」
 「い、いいのか」
 「うん」
 「王太子、どうぞ」
 と、子供の父親。
 「何度やってもよいのだぞ」
 と、王太子。
 「もういいよ」
 と、男の子。
 「たったの1匹だぞ」
 「うん、これでいい。王太子のおかげで1匹とれたもん」
 「そ。そうか」
 「ようし、坊主金魚もう2匹プレゼントしてやろう」
 と、店主。
 「それ、かしな」と、店主は男の子に言った。男の子はお椀を店主に渡した。店主はお椀を取り、網を取った。網で金魚をすくった。金魚を椀に入れる。もう一匹、お椀にいれた。そうして店主はそれを袋に入れ、子供に渡した。男の子は受け取った。
 「わあ、ありがとう」
 と、男の子。
 「坊主、よかったな」
 と、王太子は笑顔。
 「うん」
 男の子は父親のとこへ行った。
 「父さん見て」
 「よかったな」
 「では私がやろう」
 と、王太子。
 「はい王太子」
 と主人は言って、王太子にお椀とポイを渡した。
 「王太子、がんばって」
 と、エミリアは黄色い声を送った。
 王太子はエミリアを見た。
 「エミリア、あなたに金魚をとってあげる」
 エミリアは💛(きゅん)となった。おおー、と歓声があがった。
 「王太子、がんばれ」
 と、さきほどの子供。
 「おう」
 と、王太子は子供を見ていった。
 王太子は金魚をみつめた。シーンとなった。王太子はそおっとポイを水に入れた。皆、かたずをのんだ。
 「あっ」
 と、王太子が言った。果たしてぽいの紙が破けた。ああ、と観衆。主人がポイを王太子に渡した。
 王太子はポイを持ち、金魚を見つめた。王太子はそおっと金魚をすくった。金魚が紙の上に乗った。
 「やった」
 と、王太子がいったのもつかのま、ポイの紙が破けた。
 「ああ」
 と、観衆。
 「王太子、がんばってください」
 といって店主は新たなポイを渡した。
 「ああ」
 と、王太子。
 王太子は金魚をくいいるように見つめた。
 王太子は意を決して、金魚をすくった。果たして金魚はポイの上に乗った。王太子はそおっとお椀に入れようとした。
 「あっ」
 瞬間、ポイの紙はやぶけて、金魚は落ちた。
 「ああ」
 と、観衆。
 「お、王太子、めげずに」
 主人は新しいポイを王太子に渡した。王太子は受け取った。
 「こ、今度こそ」
 王太子は腕に力を入れ、金魚を凝視した。
 「王太子、ご無理なさらず」
 と、年配の聖騎士。
 「お、王太子、よかったら、網で金魚すくいましょうか?」
 と、主人。
 「よい」
 王太子は強くいった。すごい形相をしていた。
 「そ、そうですか」
 と、主人。
 
 
 そのとき、王太子が息を吸い込んで叫んだ。
 「婚約破棄だ」
 「・・・・・・」
 シーンとなった。
 え。
 「婚約破棄だ」
 「王太子、今何を」
 と、警護の長。ちょっと年配の男性だ。
 周囲がざわついている。
 「私王太子ラーンロッドは、ただいまより、エミリア侯爵令嬢と婚約を破棄する」
 「えー」
 人々が騒ぎ出した。
 「お、王太子、一体何を」
 え、どういうこと?
 「だから今言ったはずだ。私はエミリア侯爵令嬢と婚約を破棄すると」
 「ご、ご冗談を」
 「冗談ではない、本気だ」
 「そ、そんな」エミリアはぼやいた。
 「え、どういこと」
 「王太子とエミリア様が婚約破棄!」
 「ほんとに」
 「冗談じゃなくて」
 人々は話し合った。
 「王太子様、お疲れなのではないですか。今すぐ城に戻りましょう」
 と、年配の警護の長が言った。
 「疲れてなぞいぬ。私は皆の前で宣言したいのだ、ただいまより侯爵令嬢エミリア嬢との婚約を破棄する!」