ついに、結婚式当日がやってきた。
昨日、一日身を清めたセシリアはスッキリとした穏やかな心で式の朝を迎えられていた。

とはいっても、朝早くから準備に追われてバタバタと忙しい。化粧をして装飾品を身に着けて、白いウエディングドレスを着て長いベールをかぶると周囲から感嘆の声が漏れた。

「大変お美しいですわ」
「こんなにお美しい方が王妃になられるなんて、国民として鼻が高いです」
「あぁ、素敵」

口々に褒められて恥ずかしくなる。
頬を染めながらお礼を言うと、その初々しさにまた周囲は嬉しそうに満足げなため息をついた。

挙式となる教会の前に立つと、さらに緊張が頂点となった。

(どうしよう……。緊張で倒れそうよ)

何度も目を閉じて深呼吸を繰り返す。大丈夫だと自分に言い聞かせる。
この先には、愛しい大切な人が待っているのだから……。

心を落ち着かせて背筋を伸ばすと、ゆっくりと扉が開いて音楽が聞こえてきた。大きい教会。左右には身内だけでなく、国賓や警備の者など数えきれない人が一斉にセシリアを振り返った。
国を挙げての結婚式だ。
当然のことながら注目を浴びる。しかし、セシリアにはその視線など気にならなかった。歩いた先にはアレンが正装をして微笑みながらセシリアを待っている。その麗しく素敵な姿に見惚れそうになりながら、セシリアも自然と笑みをアレンに向けた。

長いバージンロードを歩き、差し伸べられたアレンの手を握る。
二人が並ぶとこんなにも美しく絵になる国王と王妃がいるのかと、周囲は羨望と憧れの視線を向けていた。

(アレン様、素敵……)

間近で見るアレンの正装姿は、やはりとても凛々しく、気高く美しかった。誓いの言葉を聞きながら、セシリアは胸をときめかせる。
そして、誓いのキス。そっと軽く唇に触れると、アレンは小さく囁いた。

「セシリア、とても綺麗だ」
「アレン様……」

愛する人に見つめられ頬を染める姿はより一層輝き、人々の目を離さなかった。

挙式が終わり、教会から移動して城下町が一望できるバルコニーへ降り立つ。二人がそこへ降り立った途端、割れんばかりの歓声が聞こえた。バルコニーは王宮から少し距離はあり、小さな姿しか見れないのに多くの国民がその姿を一目見ようと詰めかけていたのだ。

「国王陛下、万歳!」
「王妃殿下、万歳!」

歓声が一つの声となって届く。セシリアが手を振ると、さらに歓声が上がった。

「凄い人ですね」

感動で胸が震えた。その背をアレンがそっと支える。

「あぁ、俺たちが背負うものだ」
「はい。身が引き締まる思いです」

喜びとともに、こうした国民を支えていかなければならないと改めて感じる。時々、その責任感に押しつぶされそうになるがアレンとなら乗り越えていけるだろう。

今日は王宮も国もどこもかしこもお祭り騒ぎだった。他国の賓客や自国のお偉方を招いての披露パーティーもつつがなく執り行われた。

そうして、すべてが終わった時にはすでに夜になっていた。
ドレスを脱いでホッと一息つく。

「大変だったけど、なんて素敵な一日だったのかしら」
「まだまだ最後の仕上げが残っていますよ」

オルガはそう笑うと、他の侍女も呼んでセシリアをお風呂へ入れた。体の隅々、指一本、髪の毛一本に至るまで徹底的に綺麗にされる。上がった時には体中がすべすべで、香りも良く仕上がった。

「こ、これを着るの!?」
「当然です」

手渡された夜着は、いつもよりも透け感のあるシルク素材だ。気合が入りすぎて、逆に恥ずかしい。と、同時にますます緊張が高まっていく。

(これを着て、今夜……、ついに……)

心臓が飛び出しそうなほどうるさい。でも不思議と怖くはなかった。

オルガたちが部屋を出て、少しすると扉がノックされた。

「はい……」
「入るぞ」

身支度を済ませたアレンが部屋に入ってくる。アレンも身を清めたのか、以前のようにとても良い香りがした。

(あぁ、緊張するわ……)

たたずむセシリアに、薄暗い部屋でアレンが微笑むのが分かる。ゆっくりと近づくとその手をそっと握りしめた。

「セシリア、いい香りがするね」
「アレン様こそ……、素敵な香りがいたします」
「侍従や侍女らが張り切っていたからな。今日からこの部屋で一緒に寝るのだからと」

そう口に出されると恥ずかしいものがある。セシリアは顔を赤くして俯くと、アレンが頬を撫でた。

「可愛い反応をするな……。誘っているのか?」
「えっ、誘ってなど……」
「そうか?」

そう言うと、セシリアの顎をクイッと持ち上げて唇を落としてきた。目を閉じて、そのキスに応える。
アレンとのキスは気持ちがいい。
セシリアの初めてのキスはアレンだから比較はできないが、アレンはキスがうまいと思っている。口腔内を蹂躙するアレンにセシリアも必死に応えた。

(もうダメ……、とろけてしまいそう……)

アレンの手が腰や臀部をゆっくり撫でまわすと、触れられたところの力が抜けてしまいそうだ。アレンにもたれ掛かりながら、真っ赤な顔で息を乱すセシリアを嬉しそうに見る。
そして、横抱きにすると広いベッドにゆっくりと降ろした。

「セシリア、やっと俺のものにできる」
「アレン様……」

大きく開いた胸元にアレンは唇を落としていく。初めは鎖骨に、次第に唇は胸元へ落されていき、夜着の上からその豊満な胸を堪能し始めた。ドキドキして呼吸が乱れていくセシリアにアレンはどこか満足そうだ。そしてふと気が付けば夜着は全て脱がされていた。
アレンはセシリアにまたがりながら、自分の服を脱いでいく。
月明かりが差し込む暗い部屋で、アレンの逞しい体をみたセシリアは体の中から熱が溢れるのを感じた。

「セシリア……」

吐息の合間に愛おしそうに何度も名前を呟かれる。
体と体が触れ合い、熱がまじりあい、セシリアは次第に甘い声しか出なくなっていた。好きな人と体を重ねることがこんなにも満たされるということを初めて知ったのだ。

何度も何度も夢中で愛し合い、気が付けば外が明るくなり始めていた。疲れ果てて眠っていたセシリアは、カーテンの隙間から洩れる光に目が覚めた。
そっと振り向くと、アレンが気持ちよさそうに眠っている。目を瞑っていてもその端正な顔立ちに胸が高鳴る。

(綺麗な寝顔……)

と、同時に昨晩アレンと繋がった時に見せた恍惚とした熱い瞳を思い出す。甘く低い声、吐息、体中に触れる熱い手、そして貫く熱い高ぶり……。全てが初めてで、声を出して感じるしかできなかったがアレンは常に優しかった。

(思い出しただけで、なんだか……)

「またしたくなった?」

かすれた色っぽい声が聞こえてドキッとする。アレンが少し眠たそうな瞳でセシリアを優しく見つめていた。

「アレン様……」
「部屋が明るくなってきたから、セシリアの体がよく見える」
「あっ……」

胸を隠そうとすると、両手をベッドに押さえつけられた。シーツがはだけて丸見えになり、とても恥ずかしい。真っ赤な顔でアレンを見つめると、アレンは口角を上げてほほ笑んだ。

「あぁ、セシリア。君は煽るのがとても上手いね」
「アレン様……、あぁ……」

丸見えの胸の先端を口に含んで舐められる。
甘い声で身もだえをしていると、アレンの体がするりと足の間に入った。足を高くあげられたセシリアは、アレンの逞しい高ぶりに再び翻弄される。アレンの気持ちよさそうな声や吐息に、セシリアは幸福感でいっぱいだった。
そうして、ふたりが次に起きてきたのは、昼をとっくに過ぎたころだった。