翌日


いつもの道
いつもの朝
いつもの景色


「祐樹」
「…あ、ひかる」
前を歩いていた祐樹に合流した。

「おはよう、無事で良かった」
「おはよ。そっちも」
重い足取りでいつもの道を行く。


「なぁ」
不意に祐樹が力のない声を出した。
「…大本…大丈夫かな」
「さあ」
「…無事…だよな」
「どうかな」

あの大本が何もせずに時間を待っていたってことはないと思うから、何かしら実行するための行動を起こしているとは思うけど。

「こんな不明確なお題じゃわからない」
「不明確…か」
祐樹がボソリと呟いた。
他人事にしていられるのも今のうちかもしれない。



「…母さんがさ…最近俺のこと気味悪がってんだ」
祐樹が上を見て、唐突に震える声で話し出した。

「学校で起こったことを説明したら、スマホの見過ぎで頭がおかしくなったんじゃないかって」
へぇ
「俺もそう思うよ。だってありえないし。夢なんじゃないかって…幻覚なんじゃないかって。そう、願ってる」

「現実だよ。残念だけど。証人は僕らクラスメイトだ」
「…うん。紛れもなく現実。悲しいくらい生々しい」



「朝家出てさ、もう帰って来れないかもって…毎日毎日…っ怖くて…。震えながら学校に行く俺を…母さんも父さんも、気味悪そうに見てる」
「うん」

「非現実的すぎて、死ぬかもしれないんだよって言っても…困ったような顔されて…
学校からのメールには自宅待機でもいい、本人の判断に任せてくださいって書いてあったらしいけど…それなのに嫌々学校に行く俺を、不思議そうに…」

…そんなメールが来てるのか、みんなの親には。


「でもそれって普通の反応だよな。
クラスメイトが一気に3人も死んで、意味わかんないRINEが来て、次は俺かもなんて。そんな恐怖、部外者にわかるはずがない。野々村の最期を見た俺らにしか、実際に命がかかってる当事者にしか…分からないんだなって。…他人はあくまで他人なんだって」

……
「なんか、悲しくなった」


「…ごめん…こんな話。ひかるには家族がいないのに…心配してもらえなくて、守ってもらえなくて悲しいなんて…贅沢な悩みだよな」
「そんなことないよ。祐樹の気持ちはちゃんとわかる」
「……うん。ありがとう」


「なんか…息苦しいね」
「…うん」