美しいと思った。

その行動をとった理由も
その行動がもたらした結果も

因果全て

僕には理解のできない
生まれ直しても表現できない

『美』が
そこにはあったんだ。


映画やドラマの世界じゃない。
フィクションじゃない。
これは現実、ノンフィクション。

リアルでこんな『美』を
劇的な生と死を追求できるなんて…
ああ、彼はなんて名前なんだろう。



黒い帷のかかったようなどんより重い、満月の夜。
僕はとあるニュースの記事に感銘を受けた。

きっかけはなんでもないことだった。

同じ高校へ行くはずだった同じ中学の友達が死んだ。
精神的病気、解離性障害を持つ彼女の取る行動は、思いもよらぬ事実をもたらしたとしても、仕方ないで済まされてしまう。

彼女の死は、仕方のないことだったのだ。

彼女は普通の人間ではなかったから。
凡人の僕には到底理解できない重荷を抱えていたから。
だから彼女の死を告げられても、嘆くことはなかった。

だがその事実を聞いた僕が、ああそうですかといつもの生活に戻っていくことはすぐにできることではなかった。

だから意味もなく検索しただけ。
精神的病気について。
解離性障害について。
『普通』ではない人間について。

そしたら、とある過去の事件に関するニュース記事を見つけたのだ。


「……すごい」

その事件を引き起こした人間は、世間から『異常者』と呼ばれていた。

それもそのはず
ただ日々の生活に退屈したからという理由で無差別に人を殺したのだ。
彼にとってそれは単なる退屈凌ぎだった。

退屈が理由で人を殺す。
確かに異常だ。普通じゃない。

だが、彼はきっと求めていたのだ。
退屈を紛らわす出来事を。
ドラマチックで劇的な、退屈とは異なる一コマを。



美しいと思ったんだ。

その行動をとった理由も
その行動がもたらした結果も

因果全て

何故か美しいと思ったんだ。


人々は嘆いたのだろうか。
逃げたのだろうか。
意味もなく殺された人達は、生きるために何をしたんだろうか。

知りたい。
それが見たい。

死を目前にした人間は、その瞬間何をする?
死を目前にして、何を思う。どう足掻く。
免れられない『死』を、どう受け止める。


きっと…そんな瞬間に溢れた空間を作り出すことができれば
僕は見ることができるんだろう。

美しい死に様を。
人生をかけた、壮大なエンターテイメントを。



食い入るようにそのニュース記事を見る。
犯人の顔写真が上がっていた。

「…っ!この人…」

僕はそれをアップにして、その不健康にすら見える白い肌に触れる。
当然触れたのはただの画面だが。

真っ黒の癖毛。
喜怒哀楽の分かりづらい三白眼。
鋭い八重歯。

その顔に見覚えがあるという事実に
納得のいく名前が出ていた。


ああ。運命だ。
まさに運命だ。
僕はこの画面の男に恋焦がれている。
そして、同じ顔をした人を知っている。
これはまさしく運命。


「新田…さとる…」


美しいと思ったんだ。



「……僕にもできる。彼よりすごいことが。彼より素晴らしいドラマを創れる」


やってみよう。
彼と同じ顔をしたクラスメイトがいるあの場所で。
彼が見せた以上のドラマを見せてもらおう。




僕がこのゲームを始めたのはね。
君のお父さんが、僕にこんな素敵なドラマを見せてくれたからだよ。

君の、君達のせいなんだよ。

ひかるくん。