「久遠さん、目瞑ってた方がいいよ」
「……いいえ、見届けます…」
掴み合い、ぶつかり合い、時にナイフが頬を掠める。
どちらかが死ぬかもしれない状況だというのに、僕は引くほど冷静だった。
東坡が時間を稼いでくれている。
今のうちに…算段を立てよう。確実な勝利への。
チラリと隣の久遠さんを見る。
僕は勝てるかもしれない。だが…彼女は…
脳裏に蘇る、彼女の記憶。
ーー
『ひかるさんは知らなさすぎる。だから強すぎるんです。人間はもっと弱くあるべきです。臆病で未熟で、不安定な道を常に歩く生き物なんです。だからこそ、強くなれる理由を見つけられた時、思い切り道を踏み締めて歩けるんです』
『お願いだからそれ以上強くならないでください。寂しい時は泣いてください。わがままを言ってください。ひかるさんには心のままに生きる権利があります』
『ひかるさんが、私に学校のことを教えてくれたように、今度は私があなたに教えます。寂しさも、暖かさも、誰かに大切にされることも、全部です』
『一緒に生き延びるんです』
ーー
ふわふわの髪から香るフローラル…いや…
優しい、柔らかい、甘い香り。
茶色の瞳。白い肌。小さく細い…そして強い手。
久遠愛菜
僕は君を守り切ることができないかもしれない。
僕にとって君はあまりにも綺麗すぎる。
相応しくない。
僕は……君を失うことを想像しても…
きっと…耐えられてしまうんだろうな。
でも、このゲームがなければ…もう少しだけ…あと少しだけは…一緒にいてもよかった。
僕が人間らしくあれたのは…君のおかげかもしれない。
ごめんね久遠さん。
僕はあいつに勝たなければならない。
だから…君を守ることを
もう、やめさせてもらうよ。
「久遠さん」
「はい?」
「好きだよ」
「……え」
「…ごめんね」
「……ひかる…さん?」
目をまん丸にして僕を見る彼女に…そっと口付けた。

