「そろそろ時間です」
僕の後ろの隅に座っていた警察の人がそう言った。
聞きたいことは聞けた。
僕は満足だ。
「今日はありがとうございました」
軽く会釈をして席を立つ。
「ひかる」
!
さとるさんが…僕の名前を、呼んだ。
思わず顔を上げると、席を立っていた彼が真っ直ぐ僕を見ていた。
「…は、い」
「私が死んだら、遺産は全て君のものだ。それなりの額はある。大切に使いなさい」
…
「ありがとうございます」
「それからもう一つだけ。
君に…当たり前のことを、何一つ教えてあげられなくて…父親になれなくて…すまなかった」
……。
苦しそうに笑い、さとるさんは背を向けた。
黒い結われた髪が見える。
決してガタイがいいわけではない後ろ姿。
……。
「父さん!」
今度は僕が呼び止める。初めて口にした言葉。
目を丸くして振り向くさとるさん。
「僕、今退屈じゃないよ」
目が合ったまま、動かない。
少しして、さとるさんがふと笑った。
「さようなら、父さん」
沈黙を破った。
「……ああ…さようなら、ひかる」
「ひかるさん!」
面会室を出ると、久遠さんが駆け寄ってきた。
「ただいま」
「お帰りなさい…あの、どうでしたか?」
「いろいろ話ができて楽しかったよ」
「そう、ですか…」
心配してくれてたのかな。
「あの、どんな方でしたか?」
……
「…普通の、人だったよ」

