「私には妻がいた。新田光莉という、君の母親だ」
母親…
新田…ひかり
「だが彼女は、君を産んですぐに亡くなってしまったんだ」
そうだったのか。
「私は彼女が残した君に、ひかるという名前をつけて育てていこうとした。だが男手一つで子供を育てるのは簡単な話じゃなかった。すぐに貯金が底をつき、働き詰めの毎日だった。
そんな時出張の話が来てね。稼ぎのためにその話を受け、1年間君を親戚の人に預けることに決めたんだ」
それがあの人ってことか。
「しかし会社で色々な事件が起きてしまって…私の出張は一年どころじゃなくなってしまった。途中で放棄したら今までの分もなかったことになる。なんとかやりきろうと離れた土地で生活を続けた」
そんなことがあったのか…
僕がまだ幼稚園にも入っていない頃だろうか。
「毎日会社に行き、仕事をして、帰宅して寝る。翌日も起きたら同じことを繰り返す。そんな日々が続いて…ひどく…退屈だと思った」
退屈…
「なんのために生きているのか、そんなことを考え出したらキリがないとは思ったが…ただひどく、本当に、すごく、退屈で退屈で仕方がなかった」
……。
「そして、あんなことをした」
あんなこと。
大量殺人。
「今思うと、なぜ自分があんな奇行に走ったのか全くわからない。だが…なぜかと問われても、やはり退屈だったからとしか答えられないんだ。
私は、どこかおかしいんだろうね」
……。
「ものすごく…『普通』に見えますけどね」
僕の言葉に少し顔を上げる。
「…ああ、自分でもそう思うよ」
「君という存在があったのに…私は何を思ったのか、あんなことをした。純粋な興味から、あんなことをした。その結果が…このザマだ」
困ったように笑う。
興味か。
興味ね。
「…幻滅したかい?君の父親は、どうしようもないイカれた人間なんだ」
……。

