「あー…僕はそろそろ行くよ。また明日ね」
なんとなく気まずくなってしまった僕は、軽く手を上げて背を向けた。
しかし
「待ってください」
久遠さんの珍しく固い声。
「私も一緒に行きます」
…え?
「ついていきます」
え…えと
「なんで?」
「…たった一人のご家族に会った後のひかるさんを…一人にしたくないので」
……。
タイミングよく風が吹き、久遠さんの柔らかい髪を揺らす。
綺麗な人だ。絵に描けそうだ。
「…じゃあ、一緒に行こう」
「はい!」
彼女といると変な気分になる。
なんだか落ち着かないのに、ひどく心が安らぐ。
なんていうのかな…心地良い甘さのキャラメルラテみたいな感じ。
…何言ってんだ僕。
二人揃ってバスに乗る。
かなり長時間の移動だ。
隣に座る久遠さんがうとうとし始める。
「寝たら?」
無理に起きてる必要ないし。
「…いえ…平気です」
「ほんとに?」
「……はい」
「窓側に座らせればよかったね。壁にもたれかかれるし」
通路側に座っている彼女に申し訳なく思う。
「いえ…本当に」
「僕にもたれて寝てもいいよ。僕起きてるから」
「え?」
流石に断るか。
冗談めかしてそう言った僕を凝視する久遠さん。
何も言わなくなったので僕も何も言わずに窓の方を見る。
すると、トンと肩に柔らかい感触。
「…久遠さん?」
僕の肩にもたれかかる久遠さん。
ふわふわした髪の毛で顔が隠れていてよく見えないけど、耳が赤い。
「ね、寝ました」
あら
「それは失礼した。おやすみ」
陽が傾き始めた夕方。
この季節になると、陽がかげるのも早くなってくる。
流石に薄着だと冷えるな。
少しして、すぴーと寝息を立てだす久遠さん。
その髪をそっとどかすと、長いまつ毛のかかる目の下に隈があった。
「…このゲームがなければ…僕は君に触れることすら…なかったかもしれないね」
僕の誰にも拾われることのない独り言は、バスの揺れる音に呑まれ、空を切って消えた。

