「ごめんなさい……私が泣いたって…何にもならないのに」
…
「ただ、どうしても…ひかるさんが……」
「僕が、かわいそう?」
「…」
可哀想だと同情されることはよくあった。
僕にとってはなんの価値もない、そんな同情。
可哀想だなんて決めつけないでほしい。
僕はそんなこと思ってないんだから。
「僕が…可哀想に見える?」
僕の問いに、久遠さんは涙で濡れた赤い目を向けた。
そしてゆっくり首を横に振る。
「…いいえ……。可哀想だなんて思いません。だってひかるさんは強い人だから。強すぎる人だから」
…どういうこと?
「ひかるさんは知らないだけです。知らないことは可哀想なことではありません。でも…知らないということは、人を無意味に強くしてしまうんです。
…失うことを知らなければ…幸せな時を知らなければ…何も怖く無くなってしまう…。それは心が削れてしまうことです」
……何を言って…
「ひかるさんは知らなさすぎる。だから強すぎるんです。人間は…もっと弱くあるべきです…。臆病で未熟で、不安定な道を常に歩く生き物なんです。だからこそ、強くなれる理由を見つけられた時、思い切り…道を踏み締めて歩けるんです」
久遠さんが僕に一歩近づく。
そして細い手で僕の手を掴んだ。
「お願いだから…それ以上強くならないでください。寂しい時は泣いてください。わがままを言ってください。ひかるさんには、心のままに生きる権利があります」
………。
久遠さんの手を、そっと握り返す。
変な気分だ。
なんだかふわふわする。
初めての感覚。
なんだろうこれ。
「ひかるさんが、私に学校のことを教えてくれたように、今度は私があなたに教えます。寂しさも、暖かさも、誰かに大切にされることも、全部です」
……。
どうやら僕は
彼女に、見事に…
泣き落とされてしまったのかもしれない。
「久遠さん」
「…はい」
「僕にはよくわからないと思うよ」
「……ええ、そうかもしれません。だから時間をかけて教えます」
「だったら君は生き残らないとね」
「ひかるさんもです。一緒に生き延びるんです」
そっか。
「じゃあ、早くクリアしたほうがいいね」
「…え?」
廊下の窓から差し込む夕焼け。
久遠さんの目はまだ少し潤んでいて、その光を受けて輝いている。
僕は一歩、久遠さんに近づいて、少しだけ屈む。
そして僕より背の低い彼女の顔に近づいた。
「今日、廊下で、君が…キスするんでしょう?」
目を開く彼女の唇に、自分のを重ねた。
ピロン
と、久遠さんのスマホが鳴った。

