僕の生活には家族という存在がなかった。
いつからだったか、なんでだったか、よく覚えていない。
ただ、気づいた時には今の生活だったから特に不便はしていない。
だって今の生活じゃない生活を知らないから。
僕にとってはこれが『普通』だから。
1人で生活できるようになるまでは、よく知らない親戚の人が面倒を見てくれていたらしい。覚えてないけど。
今でもその人が保護者がわりになっているから生活費や教育費には困っていない。
その人が今どこで何をしてるかは知らない。知りたいとも思わなかったし、疑問に思ったこともなかった。だってそれが僕の日常だったから。
最初から家族がいなければ、家族がいる当たり前を知らないから困らない。
これが普通なんだって、これが人間の一般的生活なんだって、そう思えるから。
ーーー
「ひかるくん変なの!お母さんいないんだって!」
「お家で1人なんだってさーおかしいよね!」
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「新田は三者面談じゃなくて二者面談になる」
「新田くんは家庭訪問は実施しません」
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「隣に越してきたものですーお父さんかお母さんいますか?」
「あ…そう、なんだ。なんかごめんね?」
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「ほらあの子。309号室の新田くん。いつも1人なんだって」
「可哀想ね」
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次第に僕は気づいた。
自分が普通ではないことに。
だから変な目で見られるんだ。だから浮いてしまうんだ。
僕は『普通』になるための努力をした。
なるべく友好的になった。
家族の話はしないように心がけた。
時には嘘だってついた。
そして『普通』の高校生、新田ひかるになった。
怪我をしたら痛い。
ちゃんと喉も乾くしお腹も空く。
仲の良い友達もいる。喧嘩だってする。
『普通』だ。
僕は普通の高校生。
ごくごく普通の高校生。
本当に普通の高校生。
そんな普通の僕の、本当の父親。
それがこの人らしい。
存在すら知らなかった。もちろん殺人鬼だってことも昨日初めて知った。
でもだからといって、どうということはない。
この人は血が繋がっているだけの他人だ。
殺人鬼だろうがなんだろうが関係ない。
僕の『普通』の人生に、この人は登場しなくていい。
だったら何故、犯人が僕にこの情報を送ったのか、そんなこと知らないけど
僕はこれを見たところで
えーそうなんだ、驚いた。
と思うほか、何もないのだ。

