「りく…」
消えそうな声がその名前を呼ぶ。
秋沢りくの彼女、辻原咲だ。
問題の秋沢の方を見ると、目を開いてはぁはぁと激しい息をしていた。冷や汗が流れている。
「行こう、屋上だ」
片桐が先陣を切った。
真っ青になってる秋沢には聞こえていない。
相変わらず激しい呼吸をしながら目を泳がせている。
何してんだよ。
山野や僕の内容に比べれば全然簡単だろ。
早くしろよ。
「りく、早く行こう。ね?早く終わらせよう?」
辻原が秋沢の元に駆け寄り、腕を掴む。
「あ…ああ」
返事はしたものの恐怖で驚愕しているのか、立ち上がった秋沢の足は震えていた。
「屋上って鍵空いてなかったよな。職員室にあるか?」
片桐が少し焦って言った。
「急いだ方がいい、『今』ってのが引っかかる。俺がとってくるから先に屋上の階段まで行ってて」
片桐が駆け足で教室を出た。
僕も同意見。今ってのが引っかかる。
山野の『夕方』も曖昧だったけどあれは世間一般でいう夕方の概念でなんとかなった。
でも『今』は?
具体的な時間制限がわからない。
時間を過ぎると死ぬ。
そのことは野々村の時点で証明されている。
不明確な以上、急ぐに越したことはない。
しかし当人である秋沢は相変わらずガクブルと震えながら、辻原に付き添ってもらってトボトボと歩いている。
何をやってるんだ?
馬鹿なのか?
「急げ秋沢。時間をかけすぎると危険だ」
枕崎も席を立って催促する。
あーすごくイライラする。何をやってるんだ秋沢は。何故急がない。
分かってんの?
ゲームだよこれは。
必死になれよ。
失敗した暁にはどうなるか、嫌ってほど知ってんだろ?
ようやく教室の出口に辿り着いた秋沢は、ドアの枠を掴んでふらついている。
効率の悪いやつを見ると腹が立つ。
辻原がお願いだから急いでと腕を引っ張る。
「ちょ、ちょっと待って…足が震えてるんだ」
「りく…」
知るかそんなこと。死ぬぞ。
「秋沢!」
「秋沢、急いで」
枕崎と僕の声が重なって響いた。

