「さすって指でよかったんだね」
教室に戻る階段の途中で花里が言った。
「ひらがなだったから人体をさすってのはクリアのはずだ。言葉的に何も間違ったことはしていないから、都合のいい犯人もクリアにするしかなかったんだろうね。それにさっき僕が教室で煽ったこともあったし」
「なるほどね。じゃあひかるくんは最初から指差すつもりだったんだね」
「いや?正直言って指差した程度じゃ無理だと思ってた。だめ元でやってみただけ。ちゃんと刺すつもりだったよ」
「え?刺すって僕を?」
「いや、僕を」
「え、ひかるくん自身?」
「誰かには僕だって含まれてるはずだ。人体だし」
「…」
犯人を煽るようなことを言ったのは、もちろん今後ゲームをやる上で少しでもこちらが有利になるため。それからゲームを次の段階に進めるため。
今のままでは手がかりがなさすぎる。ゲームはレベルが上がっていくものだ。
だったらさっさとラスボスまで行った方が楽だ。
「これで今後ご都合で操作されることが減ってくれればいいけど」
「…ひかるくんってかっこいいよね」
また始まったのか。
「キモい」
「いや、今のは純粋に」
じゃあ他のは純粋じゃないのか。
「僕を刺してれば確実だったのに」
「このゲームをやる上で他のクラスメイトからの評価は下がらない方がいい」
隣の花里から熱い視線を感じながら、目を背けて言った。
「はぁ…ひかるくん一回だけチューしていい?」
花里が僕の手を取る。
「気持ち悪い」
パッとその手を払う。
「僕絶対ひかるくんのこと諦めないからね!」
「勘弁して欲しい」
「約束するよ。僕はいかなることがあってもひかるくんの味方だから」
「そりゃどうも」
「絶対死なせないからぁぁ!」
本当に黙っててくれ。
男に好かれても嬉しくない。
いや、お前に好かれても嬉しくない。
教室へと続く廊下をスタコラ進むと、駆け足でついてくる花里。
でもまあ今回ばかりは…
「協力ありがとう、花里」
「はぅっ!ひかるきゅん!愛してる!」
花里が飛びつこうと駆け込んでくる。
そのタイミングで教室に着き、ガラリと扉を開けて教室に入る僕と、扉を通り過ぎて廊下に転ぶ花里。
そのまま扉を閉めておく。
僕が入るとみんなの目線が集まる。
「ひかる!!」
祐樹が駆け足で寄ってくる。
「どうなった!?」
「クリアしたよ」
「っ!…よかっったぁぁぁ」
僕の一言に空気が和む。
「ひかるくん、誠は?」
柿田がじっと僕の目を見る。
「無事でしょうね」
僕は小さくため息をつき、後ろを指差す。
ちょうどそのタイミングで扉が開き、花里が入ってきた。
「誠!無事だったの?」
柿田が花里の顔を掴んで確認する。
おかんかよ。
「超無事!全く無傷!ひかるくんは最初から僕を傷つけるつもりはなかったんだ。すごいやり方でクリアしたんだよ。ね?ひかるくん。僕しか見てないけど。僕がいないとだめだったけど」
謎のドヤ顔で祐樹を見る花里。
「指差しただけだよ」
「…は?」
枕崎が素っ頓狂な声を上げる。
「指差しただけ」
「…さす」
「ひらがなだったからね。日本語ってムズカシイ」
「…すごいな、ひかる」
片桐が小さく拍手をした。
「…言葉を言葉のまま捉えるなら…か」
枕崎がボソリとそんなことを言った。

