鏡に映るのは、華やかに飾り立てられた可憐な令嬢の姿。薄水色のドレスを纏ったティアリーゼの、ピンクブロンドの髪に飾られているのは花の飾り。

 王宮で開かれる夜会に参加するための支度を終えたティアリーゼは、本館のエントランスにてリドリスの訪れを待っていた。

 時間通りにリドリスの到着が告げられる。

 馬車は金色の縁飾りを施されており、ランベールの紋章が散々と輝く。
 二頭引きの馬は白馬で、轡やくびきは金色。

 ティアリーゼとリドリスが挨拶を交わした直後、すかさず後ろから喜色に染まった声があがる。

「ご機嫌よう、リドリス様。わたしも王室の馬車に乗ってみたいですわ」

 身を乗り出したマリータに、リドリスは穏やかに告げる。

「申し訳ないマリータ、そういう訳にはいかないんだ」
「そうですよね……」
「ではマリータ、後程会場で」

 肩を落とすマリータをその場に残し、リドリスはティアリーゼをエスコートして、馬車へと乗り込んだ。
 馬車の中は特に会話もないけれど、互いに空気のような存在だ。気不味いといった感情も沸かない。


 天井からは散々と煌めくシャンデリアが吊るされ、壁にはふんだんに並べられた燭台。会場となっている大広間は、目が眩む程の明かりに包まれていた。

 楽の音を合図に、夜会が始まった。
 最初の一曲は、会場入りした際のパートナーと踊るのが決まりだ。

 リドリスとティアリーゼは互いの手を取って踊りだす。
 やはりダンスのパートナーとして、リドリスはとても踊りやすい。リドリスのリードが巧みなのは当然として、お互いの呼吸が体に染み着いているのだろう。
 長年パートナーとして、レッスンを含めて様々な場面で踊ってきたのだから当然だ。

 一曲目が終わると、ダンスに興じる人々の輪からすぐに抜け出した。そんな二人の元へと貴族達が挨拶回りに訪れる。この場面でも、二人揃ってそつなく対応をしていく。

 時間と共に、自然と二人は行動を別にした。
 ティアリーゼは歳の近い令嬢達と交流したりして、普段通り夜会をこなしていた。

 一人となったティアリーゼは、庭園へと足を運ぶことにした。
 普段別棟で静かに暮らしているティアリーゼには、賑やかな場は思いの外、心労を伴う。
 少し夜風に当たるのは良い気分転換となった。

 夜の庭園には篝火が炊かれ、辺りを照らしている。静けさ共に、空気が冴え冴えと澄み渡っていた。
 庭園を見渡している途中、かさりと鳴った人目を忍ぶような音がし、ある一ヶ所で視線が留まる。
 ティアリーゼの視線の先は、月夜の下で見つめ合う男女の姿。
 色取り取りの花に囲まれた二人の様子は、まるで一枚の絵画のようだった。

 本来なら気にも留めなかったであろう、男女の逢い引き。
 しかしティアリーゼは咄嗟に石柱へと身を隠し、もう一度その二人を確認する。
 見つめ合う男女はリドリスとマリータだった。

「……!」