その昔ランベールに隣接していた小国、エルニアには祖先から受け継いだ古代の叡智や文化、そして魔法が伝わっていた。
 エルニアの民は魔法の才を持つ者が多い。そしてランベールに統一される際に、魔法使い達の大半は大陸中に散って行ったと言われている。

「いいえ、貴方さえいればエルニアは復活します」

 確信したように断言する魔法使いに、ユリウスが尋ねる。


「リドリスの側にエルニアの魔法使いがいるということは、全てエルニアのための思惑という訳か?大方、リドリスを傀儡の王にでもするつもりだったのか」
「もう必要ない、エルニアの王族が無事見つかった。こんなにも喜ばしいことはない!」

 リドリスを始末せず思考力を奪い、傀儡の王として、エルニアの思想を取り入れた統治をさせようとしていた。そう推察するユリウスの言葉を否定もせず、魔法使いは嬉々として声をあげる。

「共に憎きランベール、そして目障りなソレイユ王族を排除し、エルニアの再興の礎を……っ!!」
「もう滅んだ国だと言ってるだろう」
「いいえ、王の血脈さえいれば何度でも甦ります。貴方さえいれば……!」

 ユーノに一蹴されようと、更に高揚する一方だった。

 しつこい、と吐き捨てたユーノが魔法陣を描く。宙に浮かび上がる魔法陣は光を帯び、中から巨大な黒竜が現れる。
 炎の様に体を揺らめかせた黒龍が、魔法使いへと襲い掛かる。


 自分に向けられた攻撃にも関わらず、エルニアの古代魔法を前に「素晴らしい」と歓喜するその姿は狂人そのもの。

 黒龍に飲み込まれ、魔法使いの身体は炎に包まれ、あっという間に全身は燃え上がる。
 炎が消えた瞬間、魔法使いはガクリと項垂れ、そのまま地面へと崩れ落ちた。

 その後ろには首後ろに手刀を決めたユリウスが立っていた。

「やっぱり魔法使いは物理攻撃に弱いな。ミハエルといい、こいつとか」
「俺はそんな軟弱じゃないからなっ!……ん?」

 倒れて気を失っている魔法使いの姿が変化していく。髪色、肌の質感全てが変わり、二十代と思われていた容姿が中年男性のものとなった。
 それを見たユーノは「姿が変わった」と呟く。

「これが奴の本当の姿か、若者だと思い込んで手加減無しで首を狙ったがマズかったかも」
「まぁしょうがないだろ」
「あと、こいつを運ばなきゃいけないが、どうしたものかな。すでに捜索隊が動いているかもしれないが」
「レイヴンがいるじゃないですか」

 声のした方に自然を向けると、イルが現れた。

「終わってから出てくるな」

 ユリウスがイルに苦言を零してしると、ミハエルとティアリーゼがこちらへと駆けてくる。

「ユリウス様、ユーノさんお怪我はこざいませんか?」
「大丈夫だよ。ティアこそ、怪我はない?」
「はい、皆様のお陰で……イル様はいつの間に?」
「今し方ですよ。そしてご無事で何よりです、ティアリーゼ嬢」

 きょとんと首を傾げるティアリーゼに、イルがにこりと微笑みかけた。
 そんな二人を尻目に、ミハエルがユーノに疑問を尋ねる。

「最後、何をしたんだ?完全にこの男の動きが止まっていたようだったが」
「幻影を見せてただけだよ、催眠状態にしたところを、回り込んだユリウスが殴って気絶させた」
「セコいな……」

 魔法使いはユーノの幻影魔法により、黒竜に食われて全身が燃え上がる幻を見せられていた。
 そして幻覚に掛けられている間に、背後に回り込んだユリウスに打たれたのだった。

 彼の口から、聞き出さなくてはいけないことが山程ある現状、必ず生かして捕えなくてはならない。