壮麗な大広間には、豪奢なシャンデリアが天井から吊るされ、眩い程の明るさを作り出している。
 楽の音と共に、足を踏み出す。
 マゼンタ色のドレスは薄く織られた絹を幾重にも使い、腰の切り替え位置には真珠のベルトが飾られている。

(ミルディンに行く前はユリウス様とこうして、王宮の舞踏会で踊ることになるなんて思わなかったわ)


 リドリスとは未だ婚約破棄はされておらず、その上彼が床に伏せていることも、公にはされていない。そしてティアリーゼは現在、リドリスと瓜二つの顔を持つユリウスにエスコートされ、ダンスを踊っている。
 ユリウスは王宮に来てから、自身の髪と瞳の色を隠し、リドリスの色に変えたまま。

 この会場の人々は皆、ティアリーゼと手を取り合っているのはリドリスだと誰もが信じて疑わない。きっと婚約者の王子様から、愛されているように写っているだろう。
 何でもそつなく器用にこなすユリウスは、ダンスも申し分ないようだ。

「中々上手いな」
「ユリウス様こそ」


 囁き合って微笑みを交わす二人に、人々から感嘆の眼差しが注がれる。
 二曲目が終わった後、二人は寄り添ったまま踊りに興じる人々の輪から離れた。

「ダンスまでお上手だなんて、驚きました」
「まあね、何でもコツを掴むのが上手い方なんだ」

 得意げなユリウスに、ティアリーゼはくすくすと笑った。

(こんなにも夜会を楽しいと思ったのは、初めてかもしれない)

 談笑する二人の元へ、恰幅の良い男性と髭を蓄えた紳士がやって来て声を掛けた。

「殿下、少しお話が」
「分かった」

 了承してからユリウスは、ティアリーゼへ視線を戻し「少しだけ離れるよ」と伝えた。

「分かりましたわ」
「申し訳ございませんティアリーゼ嬢、少しの間殿下のお時間をお借りさせて頂きます」
「いえ」

 不思議と正体を怪しまれたり、バレてしまわないかなどの不安は湧いてこず、きっとユリウスなら大丈夫。ティアリーゼはそう思えてならなかった。

 ユリウスが貴族達と遠ざかっていくのを見届け、自分も会場内にいる知り合いを探しに行こうとしたその時、ティアリーゼの真後ろから声が掛けられる。


「お姉様っ」
「マリータ……」

 振り返ると、ティアリーゼを睨み付けるマリータがそこにいた。目が合った途端、マリータは表情を歪ませる。

「どうして、どうしてわたしの邪魔をするのっ、意地悪しないで!リドリス様にエスコートして頂くのは、わたしの筈だったのに!どうしてお姉様が……!」