王都へと旅立つ日がやってきた。
 ソレイユの使節団と合流するため、ミハエルとイルは先に城を出ることになっている。
 準備を終えたミハエルに、ティアリーゼは感慨深気に声を掛けた。

「暫く別行動なのですね」
「案ずることはない、またすぐに向こうで会える。そうだ、王都出身のティアリーゼ嬢に色々案内して貰うのもいいな」

 王都に不安の種を幾つも抱えるティアリーゼとしては、ミハエルのこの気楽な性格に助けられる思いだった。
 賑やかな城内に慣れつつあったためか、少し寂しく感じるのは本心である。

 その時、ミハエルを見つめるティアリーゼの視界に、モフモフとした何かが横切っていく。
 気になったのはミハエルも同じだったらしい。
 トコトコと視界の隅を歩いていく毛長猫に、二人して目が釘付けとなった。
 歩みを止めた猫は、そんな二人に向けて挨拶するかの如く右前足を上げた。

「よぉ」
「喋りました……!」
「しかもモフモフだ……!」
「おい、止めろ!」

 追い詰められたモフモフ猫は、ティアリーゼに顎下を撫でられ、ミハエルの手によって全身をモフられる。

 しかし本人の意に反して気持ちがよかったのか、腹を見せながら転がった。

「止めろっつってんだろ!俺はユーノだ!」
「何、ユーノだと!?」
「声で分かるだろうが!」
「確かに、この声はユーノさんのものですっ」
「い、言われてみれば……」
「も、申し訳ございません。ついモフモフの欲望に抗えず……とても良いモフモフでした」
「次からは気を付けよろよ」

 喋る猫の正体がユーノだと判明しても、可愛いものは可愛いのだから仕方がない。そして踏ん反った偉そうな姿もなかなかに可愛いと、ティアリーゼは思ってしまった。

 ミハエルとイルが先に出立した後、続いてティアリーゼ達も馬車に乗り込んだ。
 長距離用馬車の、乗りの心地の良い椅子にティアリーゼが腰掛けると、膝の上で毛長猫が丸くなった。
 それを目にした向かいの席に腰掛けるユリウスが、不機嫌に口元を歪ませる。

「なぁ、ズルくないか?何で貴様がティアの膝の上なんだ」
「猫だからな」

 にべもなく答えて、ツンと横を向くユーノにユリウスは、ぐぬぬと唸った。

「とってもモフモフで、暖かくて気持ちがいいんですよ。ユリウス様」
「くっ、僕も猫になれば……」

 ユリウスは悔しげに、握りしめた拳を自身の腿に打ち付けた。