手にしていた箒を一旦ターニャに預けてから、ティアリーゼは書庫を掃除するようになった経緯を、ミハエルとユーノに説明し始める。

「ユリウス様はわたしを、決して使用人のように扱ったりなど致しません。ただ、元々わたしは生家で掃除や身の回り全般出来るようにと、教わっていただけなのです」
「公爵家の令嬢たる貴女が?妙な話だな」
「それは……」

 逡巡しながら視線を下げたが、自分のせいでユリウスが婚約者を使用人扱いしているなど、あらぬ疑いを掛けられてしまった。ここは正直に話すしかないとの結論に、ティアリーゼは至った。

(ミハエル殿下にご心配をお掛けしてしまっているし、わたしの勝手な行動のせいでユリウス様に批判の的を向ける訳にはいかないわ)

 本当は城中の掃除が出来るようになりたいのだが、この城に客人がいる間は自重するつもりだった。ならばせめて日頃自分がよく足を運ぶ場所で、尚且つあまり人気のなさそうな所を掃除しようと書庫を選んだ。
 書庫という空間への感謝の意も込めて。

 だがミハエルはやたら城内をウロウロする習性があるらしく、至る所で遭遇してしまう。
 この静かな書庫であっても──。

(まさか書庫にも頻繁に顔をお出しになるとは思わなかったわ……これがイル様がおっしゃられていた、野生の勘なのでしょうか)

 日頃ティアリーゼが書庫を利用している時には遭遇しないのに、何故か掃除をしているとやたらと顔を出しにくるのがミハエルである。

「実は実家にいた頃に起因するのですが、驚かせてしまったら申し訳ございません。少々家庭事情が複雑なもので……」
「こう見えて私は、国ではよく相談を受けるタイプなんだ。大船に乗ったつもりでいてくれ」
「気にせず何でも話してくれよな」
「……」

 自信たっぷりな二人に呆気に取られつつ、ティアリーゼは公爵家で自分が今までどのように育ったのか、概括的に話し始めた。