「勝負だユリウス!」
「勝負勝負と相変わらず馬鹿の一つ覚えだなお前は。じゃあ僕が勝ったら一つ言うことを聞いて貰おうか」
「言うこと?」

 朝から元気でやかましいミハエルは、朝食を食べ終わると速攻でユリウスに絡み始めた。
 ミハエルはユリウスの提案に首を傾げる。

「そうだ、僕が勝ったら雪祭りの雪像大会に参加しろ、ミハエル」
「雪像?」
「雪を固めて作る像だ。ちゃんと『ソレイユ第三王子ミハイル作』と分かるようにデカデカと明記してやる。下手くそでマヌケな雪像を作って皆の笑い者になるがいい!」
「何故下手くそ前提なんだ、出場するからにはお前より素晴らしい雪像を作って見せる!」
「出場する気満々って、勝負には負ける前提ですか」
「あれ?」

 イルからのツッコミに、ミハエルは首を捻る。

「まぁいい、兎に角勝負するのだユリウスっ」

 ユリウスは「負けたら絶対に雪像コンテストへ参加してもらう」と念を押し、しつこいミハエルを庭園へと連れ立った。

 勝敗の見届け人も必要とのことで、ティアリーゼとイルも巻き込まれてしまった。

(何故このようなことに……、お二人とも怪我はされませんように)

 イルは楽しそうに見物しているが、ティアリーゼはハラハラと祈りながら二人を見守るしかない。

 イルの出した試合開始の合図と共に、ミハエルはさっそく魔法を詠唱し始めた。ミハエルが手を掲げる。次の瞬間、一瞬屈んだユリウスが何かを掴み、それをミハエルのオデコ目掛けて投げた。石だ。

「いたっ!」

 驚き額を抑えるミハエルに向かってユリウスは駆け出す。ミハイルの腹部にユリウスの拳がめり込んだ。

「まて、ごふっ……!?」

 腹部を抑えるミハエルが苦しげに呻く。

「げほっ……魔法を、ごほっ、使えっ」
「魔法?」
「肉弾戦ではなく魔法を使え、げほごほっ」
「何言ってる、お前戦場だったら死んでたぞ?」
「五月蝿い、私は魔法対決がしたいんだっ」
「先に言えよ」

 呆れ気味な視線を向けてくるユリウスに、ミハエルが反駁する。

「王宮でも魔法使いは魔法使いと、そして騎士は騎士同士で訓練するだろ?魔法使いと騎士は訓練しないんだよっ」
「王宮で暮らしてないんだから知らないよ」
「兎に角、仕切り直してお互い魔法での勝負だっ」

(何故でしょう、ミハイル殿下のおっしゃっていることは正論なのに、何故か駄々っ子に見えてくるのは……)

 ユリウスはユリウスでセコく感じるが、確かに戦場では生き延びそうなタイプだと、ティアリーゼはある意味納得した。

「では気を取り直して……イル、もう一度合図をくれ」

 イルの合図とともに、今度はユリウスが右腕を振り上げ、短く詠唱する。ユリウスの掌から出現した風が刃となって、頭上の枝を切断した。

 落下した枝を掴んだユリウスが、向かってきたミハエルに振り下ろす。繰り返し一方的に暴行を受けるミハエルから悲痛な声が上がる。

「痛いっ痛いっやめろっ!」
「僕の勝ちかっ?」
「武器は狡いだろ!」
「ちゃんと魔法を使ったぞ」
「武器を得るために使っただけじゃないか、反則だっ」
「自分ルールの多い奴だなぁ、やっぱりお前、戦場だと死ぬぞ」

 そんな言い合いの止まらない二人の元へ、静かに近づく足音があった。

「城主自ら庭園を破壊なさるとは……」
「げっ、レイヴン……。いや、コイツがどうしても勝負して欲しいというからだな、それに破壊といってもほんの少し枝を切っただけだろう」
「このだだっ広いミルディンで、試合の場に何故わざわざこの庭園を選ぶのです?戦うのなら、城の外でやって下さい。これ以上庭園を破壊するのは見過ごせません」
「う……分かった、分かったから」

 決して声を荒げず、静かな怒りを含ませるレイヴンに、流石のユリウスも素直に引くしかなかった。

 普段感情に左右されない人が怒ると怖い、ティアリーゼはそう教訓を得た。
 ユリウスはレイヴンの視線を逃れるよう顔を背け、口を尖らせながらミハエルの方を向いた。

「お前のせいで怒られたじゃないか」
「……」