その後も村を回っては村人達に挨拶をされ、会話を交わすこともあった。彼らからはユリウスに対する尊敬の念と共に、親しみも感じ取れる。領主として、ユリウスがこの地に住む人々と常日頃から向き合っていることが伝わり、ティアリーゼは改めて感心していた。

 見回りは、村外れの小さな一軒家にまで及んでいた。最後の一軒で、丁度高齢の女性が庭先に出てきたところだった。

「領主様、ご苦労様です」
「そろそろまた雪が降りそうだが、雪下ろしに人手が足りないようなら言ってくるように」
「ありがとうございます領主様」

 深々と頭を下げる老婆に別れを告げ、二人は歩き出す。歩きながらティアリーゼはユリウスに疑問を投げかける。

「雪下ろしのための人道援助が形成されているということでしょうか。雪国ではやはり必須となるのですね」
「雪下ろしは僕が個人的にしているのであって、そんな大層な仕組みではないけど?」
「ええ!?ユリウス様が」

 驚いて思わず足を止めたティアリーゼに、ユリウスは何でもないように笑い掛ける。

「困っている領民の助けとなるのは、領主として当然のことだ。それに書類仕事をレイヴンに押し付けて外に出かける口実にもなるし」
「……」

 確かに書類仕事も大変だが、ティアリーゼからすると雪下ろしは、かなり肉体に負荷の掛かる作業のように感じる。何より、平民の家の雪下ろしを王子様がするなんて思いもしなかった。

「では、城に戻ろうか」
「はい」

 来た時同様、再び腰に腕が回さられてティアリーゼは横抱きにされてしまう。

(ま、また……でも馬に乗るためなんだから仕方がないわよね……きっと慣れてくる筈よ。多分)

 まだまだティアリーゼの羞恥は消えそうにない。それもその筈、男性と密着した経験など、夜会でダンスを踊る時程度のものだ。
 馬の背に上げられ、頭上から「ゆっくり景色を眺めながら帰ろう」と声が下りてくる。

 硬直してしまったが、振り仰げば直ぐ傍にユリウスの顔があった。

「!?」

 来た時は馬上で、ユリウスの方が前に跨って馬を操っていた。たが今回は逆で、ティアリーゼを前にして、ユリウスは真後ろで手綱を手に擦る。
 お陰で身体がぴたりと密着している。

「大人しくしておかないと危ないよ、絶対に離さないから安心して」
「は、はい……」

(何だか抱きかかえられているみたいだわ……)

 慣れるのには、更に難易度の高い状況となってしまった。
 馬が進み始めた以上、今更抗議して迷惑を掛ける訳にもいかず、このまま帰路に向かった。