一夜開け、ミルディンの城で目覚める始めての朝。寝台で横になっていたティアリーゼが身体を起こすと、丁度ターニャが入室してきた。


「おはようございますお嬢様、もうお目覚めになられていたのですね」
「おはよう」
「良くお眠りになられましたか?」
「ええ、お陰様で。ターニャは?」
「実は、使用人の数が少ない関係で一人部屋を頂けて、とてもゆっくりと休ませて頂きました」
「それは良かったわ」

 使用人の数が少ないと言った部分については気になったが、長旅に付き合わせてしまったターニャがゆっくり休めて良かったとティアリーゼは安堵した。
 ターニャが部屋中のカーテンを開いていき、それらをタッセルで纏めると、窓からは柔らかな陽光が差し込む。
 室内が明るく照らされた部屋を、改めて見渡しながら、ターニャが感嘆した。

「それにしても素敵なお部屋ですね。お嬢様のために、お部屋を用意して下さった旦那様には感謝ですね」
「そうね」
「お嬢様は旦那様とはお会いになられて、昨日は晩餐もご一緒だったとか」
「ええ、少し変わった方だけど、多分いい人だと思うわ」

 気を付けなければいけないのは、この城の主人が実はランベール国の秘された第一王子だと口を滑らせてしまうこと。
 じっと自分を見つめてくるティアリーゼの視線に気付いたターニャは首を傾げた。

「お嬢様、どうかなさいましたか?」
「ターニャのスカートが短くないなと思って……」
「え、私のスカートですか?お嬢様はスカート丈が短いドレスをご所望なのでしょうか」
「ち、違いますっ、何でもないのっ」

(またやってしまったわ……!)

 またもや怪しまれてしまった。
 昨日ユリウスに、この城に使用人として滞在させて貰う提案をしてみたところ「使用人としてなら、スカート丈を短くし、腿はニーソックスとスカートの間に絶対領域を作って貰う」
 と言っていた。
 しかし使用人全員を確認した訳ではないが、今の所絶対領域はおろか、スカート丈の短い者などいない。

 やはりユリウスに揶揄われている気がしてきた。

 支度を終えたティアリーゼがダイニングに足を運ぶと──朝から当然のように仮面を装着して、先に着席しているユリウスの姿があった。
 すぐに涼やかな美声で「おはよう!」と声を掛けてくれる。朝からとても元気そうだ。

「おはようございます」

(就寝中もお風呂の時も、あの仮面を付けたままなのかしら……)

 仮面についての質問は、聞きそびれてしまっているままだ。