蔦薔薇の細工がされた門をくぐると、敷地には庭園が広がっている。
 華美すぎない庭園には、季節に合った花々が上品に咲き誇る。

 庭園を進み、中央には歴史を感じさせる古城が聳えていた。
 馬車を降りてエントランスに足を踏み入れる。
 城の中は古臭さは感じられず、趣を残しながら改築が施されていた。

 主人であるユリウスは忌み子として、王都から遠ざけられているものの、この城はやはり王族が暮らすのに相応しい内装であり、手入れも申し分なく行き届いている。

「お部屋にお荷物を運び込んでいる間、こちらの部屋をお使い下さい」とレイヴンに案内された部屋でティアリーゼに、暖かい飲み物が出される。香りのいいお茶はティアリーゼの体を温め、長旅の疲れを癒してくれた。

 エマという若い女の使用人が、湯浴みの用意をしてくれる。
 ユリウス王子とも対面するのに、いつまでも男装姿でいる訳にはいかない。

 湯船に浸かっていると、ここまで無事辿り着けたこと感慨深げに息を吐いた。生まれ育った屋敷を出て、随分遠くまで来てしまった。

 本来の目的は第一王子ユリウスとの婚約。
 まだ見ぬ婚約者を思うと不安になるのは仕方がない、ティアリーゼは婚約破棄されたばかりなのだなら。

 年の近しい男性との交流は、リドリスを除いてあまりなく、打ち解けられるかどうかは懸念してしまう。
 貴族の婚姻に恋愛は必要はないと考える者もいるが、結局リドリスはマリータを選んだ。
 自分を伴侶として気にいる男性が、この世に存在するのかも疑問でる。

(婚約は駄目でも使用人として……それが駄目なら紹介状を貰えるように必死でお願いしないと)

 王都の屋敷に戻るのだけは何としても避けたいところだった。