扉が開くと共に、元気な声が響き渡る。

「美味しそうな果物が沢山買えましたよ!」

 買い物を終え、荷物を抱えたターニャだ。
 紙袋に入った果物をティアリーゼに見せながら、ターニャは微笑んだ。

「本当、美味しそうね」
「晩御飯の後に召し上がりましょう。では買ってきた荷物を、お部屋に持っていきますね!」

 ターニャが失礼致しますと踵を返した途端、マシューが立ち上がった。

「俺が運ぶよ」
「これくらい大丈夫、だから兄さんはそのままお嬢様の護衛をしてて下さい」

 重そうな荷物を抱きかかえる妹を気遣うマシューだが、ターニャも譲らない。
 少々頑固なターニャに、マシューは苦笑いを浮かべていた。
 微笑ましい思いで兄妹を眺めていると、再び扉が開いた音がした。

 一瞥すると若い男性が一人。
 客人のようだが、旅人にしては随分と身なりの良さが際立っている。
 見知らぬ人と視線を合わせないよう、ティアリーゼはすぐに顔を背けた。

(クルステア家から、わたしを連れ戻しにきた人には見えないけれど、念のために用心しておかないと)

 ここで食事を取るつもりなら、遠くの席に着いて欲しい。願いとは裏腹に、足音がこちらへと近づいてくる。ついにティアリーゼの近くで足音が止まった。
 恐る恐る振り返ったティアリーゼの眼前には、マシューの背中があった。

「何かご用意でも?」

 すかさずティアリーゼを背後に庇ってくれるマシューに向けて、外套を羽織った男は穏やかに口を開く。

「そちらのご令嬢は、クルステア公爵家のティアリーゼ様とお見受けいたします」
「!?」

 ティアリーゼとマシューに緊張が走った。