リドリスとの婚約破棄を告げられたと同時にティアリーゼには、新たな婚姻の打診が持ち上がった。
 相手はミルディン地方に暮らす、ランベール国の第一王子ユリウス。

 別棟に食事を運んできた時のこと。
 侍女のリタがテーブルの上に食事を並べいる間、ティアリーゼは窓の外をぼんやりと眺め、ぽつりと溢した。

「出発を早めたいわ」
「え?」
「いいえ、何でもないわ」
「お任せ下さい、出来うる限り協力をさせて頂きます」

 誤魔化そうとするティアリーゼに、食事を準備する手を止めたリタが、真剣に言った。

「ティアリーゼ様が冗談を言っているのか、本心なのか、それくらいわたしには分かりますわ。ただ、一人で無茶をさせる訳には参りません」
「でもリタを巻き込む訳には……」
「わたくしだって、仕返しをしたくて堪らないのです」

 意気込むリタに、こちらの方が気圧されてしまいそうだ。リタの真摯な瞳を見て、ティアリーゼは本心を口にする。
 やはり出来るだけ早く王都から離れたい思いは変わらない。

「お食事の準備が整いましたわ」
「ありがとう」

 食事を取りつつ、ティアリーゼはどのようにして気付かれずこっそりと公爵家を出るか、リタと話し合いが始まった。
 リタも出来うる限りの協力を約束してくれた。

 公爵夫妻の目を掻い潜んだ二人の話し合いは、翌日から更に本格的なものとなった。

 空いた時間を見つけては、リタは別棟へと足を運ぶ。決して失敗は許されず、話し合いは何日も費やした。
 公爵が屋敷にいては、ミランダによるリタへの監視の目が緩んでいる。リタの行動を不審がる者はいなかった。