屋敷の主人であるロナートが公爵家にいる間、家族全員が揃っての食事やお茶の時間に呼ばれたが、ティアリーゼはそれを一切拒否した。
 誰が好き好んで歓迎されない食卓に行きたいと思うのか。

 つい先日まではこの屋敷で波風を立てない様振舞っていた。自分のことより、父と今の家族との間に亀裂や不信感を産まないために。
 その思いがすっかりと喪失している。

 自分が屋敷を出たあとの公爵家の内情など、露程も興味を持てなかった。
 そして何より、王都を出て新しい生活が待っているのに、これ以上この屋敷での記憶を増やしたくなどない。

 薄情だと自覚するものの、この屋敷を自分から切り離すと途端に気持ちが楽になるのだ。

 何度かロナートが、直接別棟の私室に訪ねてきたが、ティアリーゼは扉を固く閉ざしたままだった。それでも扉越しに話しかけられれば、対応はした。本日も晩餐の前にロナートが娘へと呼びかける。

「リーゼ」
「家族水入らずの中に入るのは申し訳ないですし、何よりとても気不味いので結構ですわ」
「何を言う……お前もれっきとした家族の一員……」
「普段から一人での食事に慣れていますので、どうぞお気になさらないで下さいませ。誰かと食事を取るとなると、緊張してしまいますの」

 特にこの公爵家の人間との食事は気が進まない。貴族同士のお茶会よりも、気を使ってしまいそうだ。

 ここまで頑に聞き入れない姿を見せても、ロナートは何とか歩み寄ろうとしていた。
 そしてこの期に及んでロナートはティアリーゼの言葉は本心なのか、婚約破棄による傷心が原因なのか、真意を測りかねている。