現世では、架空の動物を携帯の画面上で捕まえる
ゲームアプリがあるらしい。
なんでも、位置情報を利用しているので、
動物に会うためには実際に歩く必要があるのだとか。
「……というわけで、
われわれもそのようなアプリを開発してみました。
その名も、『浮遊霊ゴー・スト』」
そう言ったのは、閻魔大王に仕える鬼女、七宝(しっぽう)だ。
「七宝くん、大丈夫なのかね? その……、著作権的に」
「大丈夫ですよ。ギリギリセーフでしょう」
閻魔大王の言葉をサラッと流し、
七宝は「近年の浮遊霊問題について」というスライドを
スクリーンに映し出した。
あの世で働く鬼たちにとって、浮遊霊は頭を悩ませている存在だ。
人間は、死んだら幽霊になり、
閻魔大王の裁きを受けて天国か地獄へ行く。
しかし、幽霊になっても現世に居続けるものがいる。
それが浮遊霊だ。
浮遊霊になる原因としては、
現世に未練があったり、
自分が死んだことに気づいてなかったりといろいろある。
しかし、人口増加や時代による人の思想の変化のせいか……。
近年、現世には浮遊霊があふれかえってしまっているのだ。
「このアプリの中には、
われわれが開発した浮遊霊捕獲装置が入っています」
七宝は淡々と説明を続ける。
「ふむ。
つまり、現世の人間にいろんなところを歩いてもらって、
そこらにいる浮遊霊をゲット――
いや、捕獲してもらうわけだね」
「その通りです。
もちろん、混乱をさけるため、
現世ではあくまでも『ゲーム』として発表します」
閻魔大王は考える。
浮遊霊を捕獲する鬼が不足しているのは事実だ。
現世の人間に手伝ってもらえば大助かりなのは間違いない。
「よし、やってみよう!」
こうして、「浮遊霊ゴー・スト」は、正式にリリースされることとなった。
数日後。
「七宝くん、どうだね? アプリの成果は?」
「ああ、閻魔大王。評判は上々ですよ」
アプリの評価の欄は、
『画面に映る浮遊霊の姿がリアルすぎてヤバイ!
めっちゃ怖い!!』
といったものであふれかえっていた。
「浮遊霊も順調に捕獲されているみたいですし、
これで捕獲班の仕事も楽になりますね」
七宝の答えに、閻魔大王は満足気にうなずいた。
また数日後。
「閻魔大王……。まずいことになりましたね」
「そうだね……」
七宝も閻魔大王も、げっそりとやつれていた。
裁いても裁いても、次々に捕獲された浮遊霊がやってくる。
アプリが爆発的人気となり、
捕獲される浮遊霊は一気に増えた。
それは、死人を裁く閻魔大王の仕事の増加につながることを意味する。
そして、とうとう裁判所の待合室がいっぱいになってしまった。
これを全部裁くのに、何百年かかるか……。
「閻魔大王、こうなったら奥の手です。
アプリの、コレクションモードを使いましょう」
「コレクションモード?」
「はい。捕まえた浮遊霊を、自分の部屋に置き、
いつでも見られるようにするというものです」
「え、それって……」
「待合室が空くまで、
現世の人に浮遊霊を預かっていてもらいましょう」
こうして、「浮遊霊ゴー・スト」は、
使用しているとなんだかとても疲れる……
いや、憑かれるアプリとして、
ますます有名になっていくのであった。
完



