「アフダル……!」

 唇をかみ締め。

 アフダルに覆いかぶさる、ウルジュワーンの涙が一滴。

 きらり、と光って、落ちた。

 その光の粒が、アフダルの額で砕けたとき。

 アフダルが低く唸って、ようやくその目を開けた。

 とめどなく。

 ぱたぱたと落ちてくる光の粒を、アフダルは。

 不思議そうに眺めてささやいた。

「……ウルフ……?
 ……泣いて……るの……?」

「……ばかたれ。
 狼が……泣くかよ。
 ……オレは、あきれているんだ。
 もう、あれほど戦わないと。
 銃は持たないと……約束したのに。
 お前が、戦えばいずれ……
 ……こんなことになるのは、判っていたんだ」

 アフダルが、本当は優しいことを良く知っているから。

 大事なモノのためには。

 あっさりとその身を差し出してしまうだろうということは、判っていた。

「うふふふ……
 約束を……破って……ごめんね……?
 ウルフ……ウルジュワーン……きみを愛しているよ?
 ……心から」

「知ってるよ」

「……それに、ね……
 ぼくは……スィビャーも……
 マリーも……愛してる……」

「ああ……ああ。
 そうだな……」

 いままで、いつも。

 世界中でたった一人だけ。

 グリーンアイズの暴走を、隻眼の狼が止めることが出来たのは。

 アフダルが、唯一。

 ウルジュワーンを愛していたから。

 そして。

 戦いを離れて、聖クレアの家で過ごした穏やかな日々は。

 ウルジュワーンしかいらなかった、アフダルの氷のような心を溶かして。

 豊かに、広げた。