あたし中卒やからね

仕事をもらわれへんのや と書いた

女の子の手紙の文字は

とがりながらふるえている

ガキのくせにと 頬を打たれ

少年たちの眼が年をとる

悔しさを握りしめすぎた

こぶしの中 爪が突き刺さる


私 本当は目撃したんです

昨日電車の駅 階段で

ころがり落ちた子供と

つきとばした女のうす笑い

私 驚いてしまって

助けもせず叫びもしなかった

ただ恐くて逃げました

私の敵は 私です



ファイト! 闘う君の唄を

闘わない奴らが笑うだろう

ファイト! 冷たい水の中を

ふるえながら のぼってゆけ



暗い水の流れに打たれながら

魚たちのぼってゆく

光ってるのは傷ついて

はがれかけた鱗が揺れるから

いっそ水の中に身を任せ

流れ落ちてしまえば楽なのにね

やせこけて そんなにやせこけて

魚たち のぼってゆく


勝つか負けるかは それは分からない

それでもとにかく闘いの

出場通知を抱きしめて

あいつは海になりました


ファイト! 闘う君の唄を

闘わない奴らが笑うだろう

ファイト! 冷たい水の中を

震えながら のぼってゆけ



薄情もんが田舎の町に

あと足で砂ば かけるって言われてさ

出てくなら お前の身内も住めんように

しちゃるって言われてさ

うっかり燃やしたことにして

やっぱ燃やせんかったこの切符

あんたに送るけん 持っとってよ

滲んだ文字 東京ゆき



ファイト! 闘う君の唄を

闘わない奴らが笑うだろう

ファイト! 冷たい水の中を

震えながらのぼってゆけ




あたし男だったらよかったわ

力ずくで男の思うままに

ならずにすんだかもしれないだけ

あたし男に生まれればよかったわ



ああ 小魚たちの群れがきらきらと

海の中の国境を越えてゆく

諦めという名の鎖を

身をよじってほどいてゆく



ファイト! 闘う君の唄を

闘わない奴らが笑うだろう

ファイト! 冷たい水の中を

震えながらのぼってゆけ



ファイト! 闘う君の唄を

闘わない奴らが笑うだろう

ファイト! 冷たい水の中を

震えながらのぼってゆけ


ファイト!





中島みゆき 「ファイト!」