今日は、小学生がわたしたちの演劇を見に来る日だ。

 わたしは、舞台は生で見てもらうのが一番だと思っている。

 映像ではカメラワークや音響に限界があるからだ。

 生ならではの迫力を味わってほしい。

 今日の劇は、高校生の青春を描いたものだ。

 田中(たなか)香織(かおり)と田中(たなか)加央里(かおり)。

 前者は社交的で、後者は内向的なふたりの少女。

 それが、同姓同名のためにとある事件に巻きこまれて……。

 というのがあらすじだ。



「さあ、みんな。精一杯頑張ろう!」



 リーダーであるわたしの呼びかけに、みんながこたえ、舞台の幕が上がった。

 舞台は順調に進んでいった。



「そんな、じゃあ、あのラブレターは、わたし宛てじゃなくて、加央里へのだっていうの?」



 一方で恋愛に対して香織が悩めば……。



「ねえ、加央里。
もう勝也(かつや)くんに話しかけないでくれる? 
っていうか、あんたみたいな、クラスでぼっちでいるやつに、
生きる価値あると思ってんの?」



 他方で、人間関係の難しさを加央里が味わい、涙する。

 主人公ふたりはその他の登場人物ともからみあい、話はどんどん加速していく。



「わたし、もう、こんな気持ちじゃあ、走れない。
……陸上部、辞めます」



 部活動での挫折(ざせつ)。



「わたしさ、頭悪いし、要領もよくない。
だから、分からないんだ。わたしに、どんな職が向いてるのか」



 将来の進路への不安。

 わたしたちは、悩みある高校生を精一杯演じ続け、
 二時間後、無事舞台は終了した。

 拍手がわき起こる中、わたしたちはもう一度全員舞台に上がり、おじぎをした。

 この瞬間が、最高に気持ちいい。



「では、この舞台を見た感想を言ってもらいます。
クラスナンバーB―7。
どう思いましたか?」



 先生に指された男の子が答える。



「氏名は不要だと思いました。
クラスナンバーや、国民管理ナンバーを使用すれば、
氏名による勘違いなどなくなります」



 先生は大きくうなずいた。
 続いて、先生にA―12と呼ばれた生徒が感想を述べる。



「恋愛というものに感情を大きく動かされるのは、
時間の無駄だと思いました。
そんなことがないように、
遺伝子マッチングによるパートナー決定システムは必要不可欠だと思いました」



 生徒たちは次々意見を述べていく。



「人間関係や性格の問題で
作業の効率が落ちないように、
感情コントロール手術はするべきだと思いました」

「部活や進路に悩んでいて、たいへんだと思いました。
今は、適性検査による職業決定システムがあって、よかったです」



 意見交換は十五分ほど続いた。

 こうして、演劇鑑賞会は大成功で幕を下ろしたのだった。




「やりましたね、リーダー」

「うん、みんなも、よくやってくれたね!」



 わたしたちはハイタッチをかわす。

 みんなは満足気に笑顔を浮かべていた。

 しかし、この充実感や、笑顔すら、わたしに、
 
 ……いや、わたしたち全員にプログラムされた感情なのだろう。

 わたしたち演劇ロボットは、
 二百年前の人間をもとにつくられているのだから。