「なるほどねー。柚樹の絵のおかげで、柚樹と柚子のキャベツ丼を作る願い事も叶ったのね。私の願い事が3つも叶っちゃって、超ラッキー」
 柚樹がママを落ち込ませたくないように、ママも柚樹を落ち込ませないようにしているんだと思った。

 だから「3つじゃなくて、2つだろ」と、柚樹も笑って見せた。

「あら、3つよ。だって、柚の木ちゃんの可愛い柚子が実った時に、柚樹のことを大切に大切に想ってくれるお母さんが2人も現れているじゃない」
「……なるほど」

 母さんと目の前のママ。
 確かに今、柚樹には柚樹を想ってくれるお母さんが二人いる。

 ふふんっ、と、どや顔で鼻を鳴らすママを見て(それにしても、ママと母さんは全然違うな)と、柚樹は思う。

 同じ母親でも全然違う。

 ママは母さんと違ってすごく子供っぽくて、母さんみたいにきちんとしてなくて、母さんと違ってアバウトで、母さんみたいに深く考えずに思い立ったら即行動しちゃって……

 頭の中で母さんとママを比較していた柚樹は、ハッとする。
 さっき、この缶がパカっと開いたおかげで立ち消えたさざ波が、もう一度、今度ははっきりとした形で押し寄せてきたのだ。

 母親が二人。でも父親は……

 この奇跡は嬉しいけど。でも。

(明日父さんが帰ってきたら、父さんはどうする気かな)

 父さんが母さんと再婚したのは、ママが死んでしまったからで、つまり、ママがいるなら、母さんは……

 今でもママとの思い出が強すぎて柚の木に近づけない父さん。
 それはつまり、父さんがまだママのことを好きって事で。

(まさか、母さんと離婚したりしないよな……)

「ほんっと、七夕さまさま! 柚の木さまさまねー! そんでもって柚樹さまさまね!! ママは成長した柚樹に会えて嬉しいわー。口は悪いけど想像した通りのイケメンだし。ちっちゃな柚樹の面影もあって、やっぱりわが子だなーって思うし」

 無邪気に笑うママ。
 ずっと会いたかったママ。
 ずっと一緒にいたい。
 もう絶対に離れたくない。

 でも。だけど。

 だけど、そうしたら母さんはどうなるのかな。

 複雑な表情で黙りこくる柚樹を見つめたママが寂しそうに微笑んでいることに、柚樹は気が付かなかった。