目が覚めた時、リビングはしんと静まり返っていて、柚樹の身体にはいつの間にか毛布が掛けられていた。

(寝ちゃってたのか)
 リビングの照明が起きがけの目に眩しくて、手の甲をのせて遮る。

(また泣いてる)
 そんな気はしていたから、前みたいに驚きはしなかった。

 ただ、ちょっと、夢の余韻で胸がズキズキしていた。
 夢と現実の心が混ざり合って、すぐには起き上がることができなくて、ぼうっとしたまま「柚葉?」と声をかけてみる。

 また、返事がない。
 でも、今度はすぐにどこにいるのかピンと来た。
 部屋の隅から氷のような風が細く入り込んでいたから。

(また中庭か)
 ほんっと、好きだよな。まるで……

 ようやく心が落ち着いて、ソファの上に寝っ転がったまま、う~んと伸びをする。
 リビングの掛け時計に目をやると、もう午後10時を過ぎていた。

 結構眠ってたんだな、と考えながら、ゆっくり体を起こして立ち上がる。
 破裂寸前だったお腹にもだいぶ余裕ができていた。

「柚葉~」
 のんびり声をかけながら、柚樹は中庭に続く大窓へと歩いて行った。
 柚樹の思った通り、この寒空の中、柚葉は柚の木を眺めているところだった。

「!」
 予想外だったのは、柚葉が最初に会った日と同じ制服姿だったことだ。

(まさか、今から帰る気じゃ)

 そろそろ帰ると言い出す気はしていたけれど、もう夜も遅いし、今夜は泊まっていくと思っていたのに。
 サンダルをつっかけて柚葉の元へ向かいながら「柚葉、あのさ。今日はもう遅いし」とソワソワ引き留めかけた時「今夜は星が綺麗ねぇ」と、柚葉が振り返って笑った。

「ほら」と指を指され、言われるがまま見上げた柚樹も「ホントだ」と目を見張る。

 澄んだ夜空に星がたくさん瞬いている。
 ほわんと吐いた息が白い雲になって、溶けていった。

 大きさも、光り方も、色も、同じようで少しずつ違う無数の星が夜空に散らばっている。
 大きい星も、小さい星も、淡い光や力強い光を放つ星たちも、オレンジ色っぽかったり、チラチラ光る星たちも……

 それぞれの星が、広い空の気に入った場所に陣取って、自分らしく輝いている気がした。

 水族館のトンネル水槽にちょっと似てるな、いや、似てないか、と心の中で自己完結させていたら「ちょっとトンネル水槽みたいじゃない? ほら、水族館の」と柚葉が白い息を吐きながら言ったので驚いた。

「え? なに?」
「あ、いや、別に」
 以心伝心、みたいだ。

 なんか、くすぐったい気持ち。
 オレも同じこと思った、と言おうとしたけど、ハズいから内緒にすることにした。
 そうやって二人で星を眺めていたら、気持ちが落ち着いてきた。

(別に、永遠の別れなわけじゃないんだし)

 嬉しそうに夜空を見上げる柚葉の横顔を見つめ、柚樹は引き留めるのはよそうと決めた。
 柚葉には柚葉の事情もあるだろうし。

 ちゃんと住所を聞いて、連絡先を交換して、また会う約束をすればいいだけだ。
 今度はオレが柚葉に会いに行ったっていい。
 柚葉の家庭の事情のこととかも、オレにできることが何かあるかもしれないし。