ひゅるんと、冷たい夜の風が吹き抜け、汗で濡れた下着が身体を一気に冷やす。
「さびっ」

 ぶるっと全身を震わせた柚樹は、レジャーシートに乗せていたジャケットを着込み、柚葉の置いて行った巨大トートバッグにぐちゃぐちゃと荷物をつっこんで、家へと駆け出した。

 柚葉が公園に置き去りにしていったもろもろは一つずつは軽いのに、合わせると結構重い。
 この重い荷物を平気な顔で柚葉は持ち歩いていたんだな、と柚樹は思った。
 行きはお弁当とかお茶も入っていたから、もっと重かったはずなのに。

 しかも、これ、全部オレと朔太郎のために用意してくれたんだよな。なわとびとか、いらないおもちゃも多かったけど。

 そういえば、母さんも、家族で出かける時は自分用のショルダーバッグの他に、いつも大きなトートバッグを用意していた。持ち運ぶのは父さんの役目だけど。

 母さんのトートバッグの中には、柚樹の上着だったり、汚したときの靴下だったり、タオルにティッシュにといろいろ詰まっていて、柚樹が何かしら困ったタイミングで「だから言ったでしょ」と呆れながら、それらを差し出すのだ。

 今まで全然気にも留めなかったけど、それって、当たり前のことじゃないんだよな。

 水族館で柚葉が言ったように、オレは今までずっと、当たり前にいろんな人たちから愛情を受けて育ってきたのかもしれない。
 たいていの子供は、当たり前に守られて生きている。
 だけど当たり前の先には、だれかの優しさがあるんだ。

 朔太郎は、ほうれん草の海苔巻きを野菜嫌いのお父さんに作ってあげたいと言った。それって、朔太郎なりにお父さんの健康を守ろうとしているってことだよな。

 両親が離婚したことで、朔太郎は守られる側から守る側に変わろうとしているんだ。
 だけど、いきなり大人にならなきゃいけなくなって、混乱して、頑張って、でもうまくいかなくて、大人にもなりきれなくて、イライラして。

 きっと朔太郎も、母親が普通に参観にやって来る家族をズルいと思ったに違いない。

(それもオレに似てるかも)と柚樹は苦笑した。

 いろいろあったし、されたことは簡単には消えない。
 思い返せばやっぱりムカつく。

 ホントのことを言えば、月曜日学校に行くのが怖い。
 朔太郎と仲直りしたからって、クラスのみんなの目がいきなり変わるわけじゃないから。

 だけど、それでも、朔太郎と本気で話せて良かった。
 少し、強くなれた気がする。
 どこがって聞かれると上手く言えないけど。

(超スッキリするところか)
 確かに。と、走りながら柚樹の口元には自然と笑みがこぼれていた。