公園の時計塔が、夕方5時を知らせるチャイムを鳴らしている。

 いつしか気温はぐんと下がり、辺りは薄暗くなっていた。
 小さな子供たちを遊ばせながら会話に花を咲かせていたママ友集団もいつの間にか消えて、辺りはひっそりしていた。

 さっきまで誰かが乗っていたらしいブランコが、冷たい風を受けながらキィキィと揺れている。
 暗い砂場におもちゃの赤いスコップが一つ、心細げに落ちていた。

「そろそろ帰るわ」と朔太郎が言って、グローブを柚樹に手渡すので「おう」と柚樹も受け取りながら頷いた。

 キャッチボール、公園の遊具、柚葉のバッグに入っていたバドミントン、フリスビー、二人でお弁当も食べて、ふと気が付けば誰もいなくなっていた。
 こんなに公園で遊んだのはいつぶりだろう。

「弁当、旨かった。特に唐揚げとほうれん草のやつ。お前の母ちゃん、料理上手なのな」
 ムカつくぜ、と朔太郎が苦笑する。

 唐揚げは母さんだけど、ほうれん草のおかずは柚葉だ。
 梅干しであえた酸っぱいほうれん草の海苔巻き。
 確かにアレはほうれん草のソテーと同じくらい旨かった。

 朔太郎は唐揚げを頬張って「ウマ」と言った後、ほうれん草の海苔巻きを食べて酸っぱ顔をし、また唐揚げを食べてから、ほうれん草の海苔巻きも口に入れて「ヤベー」とうるさかった。

「あのさ……ほうれん草のレシピ、今度母ちゃんから聞いといてくんね?」
「レシピ?」
 真剣な表情で朔太郎が頷く。

「オレ、最近料理しててさ。簡単なやつだけど。唐揚げはレベル高すぎて無理ゲーだけど、ほうれん草は簡単そうだし、野菜嫌いの父ちゃんも食べるかもなって、思って」
 父ちゃんのところを少し恥ずかしそうに言う朔太郎を見ながら、柚樹は感心した。

「朔太郎料理できるの? すげー」
「だ~か~ら~、簡単なやつしかできねーつっただろ。耳悪ぃんじゃね?」

 耳を真っ赤にする朔太郎は、口は悪いけど話してみると結構いい奴だった。
 しかも柚樹とゲームやマンガの好みも似ていて、めちゃくちゃ気が合って、話が弾んで、お互いびっくりした。

「わかった、聞いとく……月曜日にレシピ渡すから、休むなよ」
 柚樹の言葉の意味を理解した朔太郎が、鋭い目で見返してくる。

「お前もな」
 それから、くるりと柚樹に背を向け「月曜な~」と、軽く手を振り走り去っていった。

「片づけてから行けよ」と、苦笑しながら、柚樹は朔太郎の後ろ姿をしばし見送ったのだった。