ハッとして、反射的に朔太郎の腕を掴んでいた。

「?」
 怪訝な顔で振り返る朔太郎を、柚樹は思いっきり怒鳴りつけた。

「もっとちゃんと謝れ! オレの家族をバカにしたこと、しっかり謝れ!!」
 目を見開く朔太郎に、柚樹は続けた。

「お前の家庭の事情がどうとか、そんなのやっぱ関係ない! どんなに寂しくても、いけないことはいけないんだ!」

「!!」

 ぽかんと開いていた朔太郎の口が、やがてへの字に歪んでいく。

「ごめん」
 下を向いた朔太郎から、ぽとり、と、涙が落ちる。

「……ごめん、なさい」
 ぼとっ、ぼたっと涙が落ちていく。

「オレの母ちゃん……浮気相手と再婚するって……オレと父ちゃん捨てて、去年出てって……それで参観日とか、すごく惨めで……ガキっぽいって、思うかもしんないけど……前の参観の時、後ろの席でお前とお前の母ちゃんがイチャついてんのが、すごく、すごくムカついて……なんか、わざと仲いいのを見せつけられてるみたいで……そしたら野球クラブの仲間にたまたまお前と同じ保育園だったやつがいて……お前の家が再婚だって知って……母ちゃんの浮気のこととか……思い出して……」

「……」
 悪ガキを絵に描いたみたいな朔太郎が泣いている。

 モヤモヤして、苦しくて、ムカついて、イライラして、どうしようもない。
 どうしようもなく辛くて、何かに当たらずにはいられない。
 柚樹も知っている、どうしようもない感情。

「だけど……みんなからハブられて……すげぇ辛くて……お、お前に……本当に酷いことしたって……気づいて……でも、どうしたらいいのか……、わかんな、くって……お前、学校来ないし……、謝ったって絶対、許してくれない……お、オレが休めば、お前、学校来るかもとか……」

 心がズキズキする。

「なんでそんな発想になるんだよ」

 生まれて初めてもらい泣きってやつをした。
 柚樹は泣きながら朔太郎に言った。

「泣け泣け! 全部出せ」

 こういう時は、泣けるだけ泣けばいいんだ。
 涙が枯れたら、きっと超スッキリするから。

 小6だけど、泣くのはガキっぽいけど、でも、いいんだ。と、思った。
 母親を恋しがるとか、すげぇハズいけど、でも、それもいいんだ。と思う。

 誰かのことが羨ましくて酷いことをすることも、間違ったことをすることもある。
 傷つけることも傷つけられることもある。

 そういう時は、ちゃんと喧嘩して、ちゃんと仲直りすればいいんだ。

 だって、オレらは、まだ子供だから。