柚樹の寝息を確かめた柚葉は、そうっと薄目を開ける。
 すやすや眠る柚樹の口元は、少し笑っている。
 どんな夢を見ているのかしら。

(本当に、いい表情になったわね)
 私には、できなかった。

 この子をこんなに豊かな顔に変えてくれた夏目のおじいちゃんは、きっと素敵な人に違いない。
 そして、その素敵な人の娘もきっと。

 柚葉は柚樹の硬い髪の感触を確かめながら、そっと撫でた。

「私も、会ってみたいわ。夏目のおじいちゃんおばあちゃんに。それから、あなたのお母さんにもね」
 絶対に叶わないことだけれど。と思いながら、柚樹の匂いをそっと嗅ぐ。

 ちょっぴり汗臭い、私の知らない少年の匂いがした。