また小さくなっている。

 ひまわりの浴衣に着替えたママと手をつないで、サメ柄の甚平を着た柚樹は自分と同じ背丈の柚の木に向かって歩いているところだった。
 後ろを振り返るとツンツン髪の父さんもいた。

『とげとげに刺さらないように気を付けてね』
 ママが言って『うん』と柚樹は頷き、慎重に細い枝葉に短冊の輪っかを通す。
 色とりどりの折り紙の短冊が、小さな柚の木を彩っていた。

『ママ、おねがいごとは、なににした?』
 しゃがみこんだママが、柚樹の小さな手を優しく包みこむ。

『柚の木ちゃんが成長して黄色い実が生ったら、柚樹と一緒に柚子のキャベツ丼を作れますよーに』
『きゃべつどんいーねぇ』

『でしょー』
『たまごもいれよーねぇ。かつぶしも、ぱあ~ってかけようねぇ』

『かけようねぇ。みんなで食べようねぇ』
『ママ、やくそくね』

『……そうだね、約束しようね。よおし、頑張るぞー! ところで柚樹は何をお願いしたの?』

 黄色い折り紙にボールペンでグルグル書いた短冊を見て、柚樹は首を傾げた。
 お願い事はなんだったっけ? 忘れちゃった。

『あ、そうだ』
 ママを見て、閃いた。

『ママのおねがいが、かないますよーに』

 後ろでパパがずずーっと、鼻をかんだ。

 ぎゅーーーーーー

 いきなり柚樹はママに抱きしめられて、嬉しくなる。

『絶対に、絶対に叶えようね』
『うん! やくそく』

 柚樹の突き出した小指に、ママがにっこり笑いながら小指を絡める。

『約束』
 ママの小指から温かさが伝わってきて、すごくすごく嬉しいなと思っていた。




「柚樹、柚樹、柚樹ったら。もうすぐ着くわよ」 
 身体を揺さぶられて、柚樹が目を開くと、車窓から明るい光がさしていた。

(オレ、寝てたのか)
 ふわぁと伸びをして窓の外に目を向ける。

 澄みきった空、短く刈り取られた藁色の田んぼ。遠くに見える青い海……

 見覚えのある景色が広がっていた。ガタタン、と、のんびりした音と共に座席が揺れる。
 夏目のばあちゃんちは、もうすぐそこだった。