(動物園かぁ。確かリニューアルしたんだよな)

 柚樹は内心ワクワクする。

 2年前までは、柚樹の家から動物園に行くには、公共交通機関を利用すると電車とバスを乗り継いで片道3時間くらいかかってしまい、車じゃないといけない場所だった。
 しかし去年、動物園直結の地下鉄が開通して、柚樹の家の最寄り駅からでも、2駅先の夏野原駅から地下鉄に乗り返れば、1時間半で行けるようになったのだ。

 地下鉄開通に合わせて動物園もリニューアルし、野生に近い状態の生態展示や、ふれあい動物ブース、草食動物を見ながら食事を楽しめるレストランなどがあって、意外と面白いと話に聞いている。

 柚樹もリニューアルした動物園がずっと気になっていた。でも自分から「動物園に行きたい」と言うのは、ちょっとガキっぽい。と、結局言い出せずにいたのだ。

(そんでもって、母さんが妊娠して……)
 モヤモヤが現れそうになった時、券売機の前で「何駅?」と柚葉が尋ねてきた。

「動物園はズーランド前駅だけど、まずは夏野原駅まで行って」
 柚樹が得意げに説明していると、「そんなこと聞いてないわよ」と柚葉が呆れた。

「は? 柚葉が何駅?って聞いたんじゃん」と、柚樹もムッと言い返す。
「私が知りたいのは、動物園じゃなくて夏目のおばあちゃんちがある駅よ」

「夏目のばあちゃんち? 母さんの実家ってこと?」
「そうよ」

 柚樹は首を傾げる。なんでばあちゃんち? しかも、なんで夏目? それを言うなら。

「春野のばあちゃんちじゃなくて?」
 確か柚葉は、春野のばあちゃんの遠い親戚のはず。顔をしかめる柚樹に「夏目のおばあちゃんち」と柚葉が声を張り上げる。

(マジでばあちゃんちに行く気かよ)

「何で夏目のばあちゃんちなんだよ? つか、動物園行くんじゃねーの?」
「動物園? どうして?」

「どうしてって」
 柚樹は口ごもる。

(あんまりギャーギャー騒ぐと、オレがすっげー動物園行きたいみたいじゃんか)

「もう~、つべこべ言わず夏目さんの駅を教えなさい!」