「ふうん」
 柚葉の難しそうな顔に、ハッと、柚樹は我に返った。
 そうだった。今は「死ね」発言の撤回をしなきゃいけないんだった。

「いや、さっきのは本気じゃないくて」
「なるほどねぇ」
 ふんふんと頷いて柚葉が呟いた。

「もしかしたら、これがミッションかもしれないわね」
「ミッション?」

「みっし、ミシミシ言うわね、この床~。おほほほ」
「?」
 床をガンガン足で踏みつけて柚葉が嘘くさく笑っている。

「……」
 よくわかんねーけど、もしかして説教されずに済んだ?

「ところで」
 ホッとしたのも束の間、柚葉が柚樹をじっと見つめてくる。

(なんだよ、やっぱ説教かよ)
 ところで、先生には相談したの? ところで、ご両親は知ってるの?

(面倒くせーな)
 だから、テキトーに話合わせときゃ良かったのに。いつもそうしてるのに。ああ、失敗した。

「ところで、私、しばらくここに住むことにしたからね」
「……はい?」
 あまりに想像とかけ離れた言葉に、柚樹の口から素っ頓狂な声が出た。

「だから、私、しばらくここに住むわね」
 柚葉がにっこり繰り返す。

「え? は? な、なんで?」
 なんで、あの話からそうなった?

 困惑する柚樹を真似るみたいに、柚葉も困った顔をして腕を組む。

「実はねぇ、私もいろいろ家庭の事情が複雑で、親と喧嘩して家出してきたのよ。本当は君のママにお願いして、しばらく泊めてもらうつもりだったの」
「は? え? それって、つまり」
 つまり、柚葉は家出少女だったってこと? なんか隠してるっぽいとは思ってたけど。

 なるほど、と柚樹は改めて柚葉を見た。
 それなら、これまでの柚葉の不審な言動も納得がいく気がした。なんで制服着てるのかは謎だけど。