たかが雪で、手を繋いだまま子供のようにはしゃぐ柚葉に、秋山柚樹は苦笑した。

 こうやって無邪気に笑っている姿は、小さい頃と変わらない。
 満面の笑みで「にいにい~」と必死に追いかけてくるちっこいコイツがめちゃくちゃ可愛くて、何でもしてやりたくて、「甘やかしすぎ」と母さんに怒られたことも、一度や二度じゃない。

 柚葉が生まれる前の、12歳のオレが見たらびっくりするだろうな。と、よく思っていた。
 同時に、あの不思議な1週間のことを思い出した。

 でも年月が積み重なっていくうちに、記憶は曖昧になり、あれは本当に起きたことなのだろうかと自信がなくなって、時々、どうしようもない喪失感に襲われた。

 けど、そういう時に限って、コイツが……

(守っているつもりが、いつの間にか守られていたのかもしれないな)

「もっと降れ~」
 泣き虫柚葉は、すっかり吹っ切れたのか、それとも恥ずかしさを隠すためなのか、うるさいくらいにはしゃぎ続けている。

 12歳の時に出会った秋山柚葉の顔は、長い年月の中ですっかりあやふやになっていて、目の前の柚葉と似ているのかどうか、もうわからなかった。

(それでいいんだ)
 嬉しそうに笑う妹の柚葉を見つめ、柚樹は思う。

 真っ白い雪は夜空をふわりふわりと舞い降りて、焚火は穏やかに沈下していく。

『もう柚樹は守られるだけの子供じゃなくなったのね』

 噛みしめるように言ったもう一人の柚葉の気持ちが、今ならよくわかる。
 嬉しくて、ちょっと……いや、かなり寂しい。

 だけどいつか、コイツと肩を並べて仕事をする日が来るかもしれないと考えるとワクワクする。
 それまでオレも踏ん張んねーと。

(全力で死ぬまで生きなきゃな)と、夜空を見上げ、柚樹は心の中で呟いた。

 澄み切った真冬の空で、何十億もの星々が、キラキラ、キラキラと、過去から未来に向かって優しい光を放っていた。


                                                      完