涙と鼻水を出し切った後、お兄ちゃんと二人で一本の焼き芋を半分こにして食べた。

 柚葉は自分の心が羽のように軽くなっているのを感じていた。
 同時に、激しい恥ずかしさも込みあがってくる。

 もう15歳なのに、ビービー子供みたいに泣いちゃった……

 早く独立したいとか、大人になりたいって言いながら、ホントダメダメだ。

 瞼がどよんと重たい。
 きっとすごく目が腫れてる。
 私、すごいブサイクな顔になってるんだろうな。
 夏目のおじいちゃんに見られたら「泣いたじゃろ」とか、絶対からかわれる。

 本当、恥ずかしすぎる。
 だけど、もう一個、私は恥ずかしいことをしなきゃならない。

「お兄ちゃん」
「ん?」とお兄ちゃん。妹の私から見ても、やっぱりお兄ちゃんは超イケメンだ。

「あのね」
「うん?」

「……映画の撮影順調?」
「うーん、雨のシーンがあるんだけどさ、監督が本物の雨にこだわってて、いい雨が降るまで待ちなんだよ。でも今の時期、雨はなかなか降らないんだよな」

「へ、へえ。そうなんだー。……それでお兄ちゃん、あのね」
「うん?」

「……来クールのドラマで、高校生の役やるんだってね。コハルたちがキャーキャー騒いでた」
「……さすがにキツイよな。オレ、もう27なんだけど……」
 苦笑するお兄ちゃんを見ながら、はあ。と、柚葉は小さくため息を吐く。

 そうじゃなくって、しっかりしろ、私。

「お兄ちゃん」
「うん?」
 今度こそと、息を吸い込んだ。

「ありがとう」

 言った瞬間、ぎゃっと、恥ずかしさに耳が燃える。
 どうして家族に「ありがとう」を伝えるのって、こんなに恥ずかしいんだろ。
 ちっちゃい頃は、全然平気だったのに。

「そういうの、こっちがハズいからやめろ」と、お兄ちゃんも私の頭をぐりぐり押し込んで照れくさそうに笑っている。

 いつの間にか、星が瞬いていた。
 1月の夜の冷たい風が、火照った頬を撫でていく。
 パチパチっと、相変わらず焚火の爆ぜる音はするけれど、火はだいぶ小さくなっている。

「さてと、そろそろ家に帰るか」
 お兄ちゃんが伸びをして手を差し出してくる。
 お兄ちゃんと手を繋ぐのは久しぶりだな。

「母さんが唐揚げ作って待ってるってさ」
「うん!」
 その時、空からふわりと白いものが舞い降りてきて、夜空を見上げた柚葉は「あ!」と叫んだ。

「お兄ちゃん、雪!」