胸の辺りがなんか、モヤモヤする。何でかわかんないけど……
 心がざわついて、私はわざとニヤニヤしてみせた。

『見惚れちゃうくらい、この浴衣私に似合ってる?』
 明らかに冗談で言ったのに、お兄ちゃんは柔らかく微笑んだ。

『柚葉に似合うだろうなって、ずっと昔から思ってたよ』
『ずっと昔から……』

 ズキン、と、今度はわかりやすく、胸が疼いた。
 痛みの正体は、知りたくない。
 私は急いで夜空を見上げた。

 ヒューーーー、ドーン、ドドン。
 ドンッ、ドンッ、ドンッ。パラパラパラパラ。
 終盤の打ち上げ花火は、次々と惜しみなく豪華に打ち上がり、夜空を明るく彩ってパっと消えていく。

 ヒューーーー、ドンッ
 ドンッ、ドンッ、パラパラパラ。

『やるな、朔太郎』 
 夜空を見上げ感心するお兄ちゃんの横顔を盗み見る。
 もう、いつものお兄ちゃんだった。
 だけど。

 いきなり気づいてしまったのは、私が大きくなってしまったからかもしれない。
 この浴衣が着れるくらいに、大きくなってしまったからだ。

 心がズキズキする。

 ドンッ、ドンッ、パラパラパラ。
 ヒューーーー、ドーン、ドドン

(あの時も、あの時も、それから、あの時も)

 ドンッ、ドンッ、ドンッドンッ、ドンッ、ドンッ

 ドンっと花火が鳴る度に、過去に見たお兄ちゃんの眩しそうな微笑みが思い出された。


 ヒュルルルルルルルーーーーーーーーー

 最後の花火が、夜空の星目掛けて光の糸を垂らしながら高く高く上っていく。それが一瞬、ぱっと消えて。


 ドンッ!!!!!!!



 落雷に打たれたみたいに、私は閃いてしまった。

(お兄ちゃんは、私の中に誰かを見ているんだ。私じゃないんだ)

 取り残された光は、ゆっくりと、まるで涙のように夜空を流れ落ちていった。