ガタタン!

『柚葉~、お兄ちゃん来たわよ』
 お母さんの声に『今行く~』と二階から大声を出す。
 姿見の前でくるりと回って、全身を確認。

『完璧!』

 この浴衣、びっくりするくらい私に似合ってる。
 紺色の生地と、黄色いひまわり柄が、顔色をワントーン明るくして、ゴールドピンで留めただけのボブヘアまで、この浴衣のためにセットしたみたいに見えてくる。
 色付きリップを塗ったあと、もう一度鏡で確認して、走りたい気持ちをぐっと堪えて、階段をおしとやかに降りて行った。

『ゆず……』
 最初に気づいたのはお兄ちゃん。思った通り、びっくりしている。
 振り返ったお母さんもポカンと口を開いて私を見つめる。

『びっくりするくらい似合ってるでしょー』
 えへへーと笑った時、ハッとお母さんが我に返った。

『あなた、それ、ママの部屋の浴衣じゃない』
『うん、自分で着つけたの。この帯の結び方、花文庫って言ってね』

『ママの部屋のモノはお兄ちゃんの宝物だから勝手に持ち出さないでって言ったわよね。今すぐ、着替えてきなさい』
 眉をよせるお母さん。
 思った通りの反応だ。
 ムッとしながら私も反論する。

『でも、前の浴衣はちっちゃくなってて』
『でもじゃないでしょ』
 眉をよせるお母さんに『母さん』と、お兄ちゃんが口を挟んでくれた。

『いいじゃんそれ。柚葉に似合ってる。気に入ったなら柚葉が着たらいいよ』
『……本当に?』

『本当に。浴衣一人で着るの、大変だったろ』
 やっぱり、お兄ちゃんはわかってくれると思ってた!

『あのね、タブレットで検索して、何度も何度も練習したの! お兄ちゃんをびっくりさせたかったんだ』
 くくっと、お兄ちゃんは笑って、お母さんを見る。

『母さんも驚いてるし、サプライズ大成功だな』
『ユズは、柚葉に甘いんだから』と、お母さんはため息を吐いてから『それはお兄ちゃんにとって大切な浴衣だから、絶対に大事にするのよ。約束よ』と私を見た。

『わかってまーす!』
『柚葉、あなた本当にわかってるの? ママの部屋のモノは』

『じゃね、お母さん! 行ってきまーす』