ガタタン!
 景色が変わった。

『ねえ、お兄ちゃん。絶対に絶対に絶対だよ!』
 二階の自分の部屋にかかったカレンダーの〇印を見つめ、電話越しのお兄ちゃんに念を押す。

『わーかったって。明後日だろ。夕方にはそっちにつけるようにするから。それまでに、ちゃんと夏休みの宿題やっとくんだぞ』
『もう終わってまーす! あんなの簡単すぎて終業式の日に終わらせちゃったもんね』

『マジか!』
『マジですよー。なにせ、聡明高校出身のお兄ちゃんの妹ですからねー。私、賢いの。てゆーか聞いてよ、お父さん酔っぱらうとほんっとウザいの。兄妹揃って聡明かあ、とか言ってさ、勝手に人の進路決めつけてニヤニヤしてるの。もうほんっと、果てしなくウザい。私まだ小6なんですけどって感じ』

『……』
『もしもし? お兄ちゃん、聞いてる?』

『え? あ、ああ。柚葉も聡明行くのか?』
『だから~、まだ私小6だってば! やっぱ聞いてないじゃん』

『……だよな。わりぃわりぃ。……じゃあ明後日な。風邪ひくなよ』
『? お兄ちゃんこそ! じゃね』
 電話を切って「イエーイ!」とベッドの上でジャンプする。

 久しぶりにお兄ちゃんと会える!
 しかも、夏祭り!
 花火大会!!

 お兄ちゃんの友達で花火職人の朔太郎おじちゃん(おじちゃんに見えるけど、実はお兄ちゃんと同い年)が、お兄ちゃんでも行きやすい穴場の花火大会を教えてくれたのだ。
 ついでに朔太郎おじちゃんの作った打ち上げ花火も上がるらしい。

『魂の一発を見せつけてやるってアイツに言っとけよ』と、お中元のカルピスと一緒に、パンフレットを持ってきてくれた。

 オレとアイツは永遠のライバルだからなって、朔太郎おじちゃんはよく言ってるけど、なんのライバルなんだろ。
 とにかく、朔太郎おじちゃんに感謝感謝!

『浴衣、浴衣』
 ウキウキとクローゼットから、クリーニング袋に入ったままだった紫色の浴衣を取り出して、袋を破く。

『うそ! 浴衣ちっちゃくなってる!!』
 そういえば、去年から10センチも身長が伸びたんだった。
 子供用の浴衣は手首と足首がはみ出しちゃって、つんつるてん。
 これじゃ、恥ずかしくて着られない!
 夏祭りは、明後日なのに! 

 その時、ナイスアイデアが浮かんだ。