病院のベビーベッドの中を、柚樹は息をひそめて覗き込む。

「……ちっちゃい」
「3800gだから大きい方だぞ。柚樹は3300gだったからな」

「ユズ、赤ちゃんの手に指を近づけてみて」
 母さんに言われて、恐る恐るもみじ饅頭みたいな右手に人差し指を突っ込んでみる。
 きゅっと、柚樹の指を赤ちゃんが握りしめた。

「わっ」
「生まれたての赤ちゃんがする反射なのよ」

 あったかくて、小さくて。なんか、胸が。
「……可愛い」
 思わず呟くと、父さんと母さんが顔を見合わせて笑う。それが恥ずかしくて、柚樹は赤ちゃんだけに注目した。

 小さい。サルみたい。だけど。
 オレの、妹。

 自分の中に生まれる、この、きゅんとした気持ちはなんなんだろう。
 呼びかけたら反応するかな? でも、なんて呼べばいいんだ?

「赤ちゃん」も変だし「妹」は、もっと変だし……
 柚樹は、父さんと母さんに尋ねた。

「赤ちゃんの名前、なんていうの?」
 そういえば、ずっと赤ちゃんの話題を避けてきたせいで、柚樹はまだ赤ちゃんの名前を知らなかったのだ。
 父さんと母さんがまた驚いたように顔を見合わせ、笑った。
 もったいぶるように、父さんが咳払いをする。