「ママと一緒にいたい。でも……できない」

 ぎゅっと目をつぶる。
 胸が潰れそうだった。

 ママが消えちゃうのはイヤだ。
 叫びたくなるくらい嫌なのに。

 だけど、だからといって、赤ちゃんの命を奪うことはできない。
 まだ生まれていない赤ちゃんは、これまで否定し続けていたこともあって、柚樹の中では、まだ妹としての実感はほとんどない。

 だけど、赤ちゃんが死んじゃったら、オレの大切な人たちがとてもとても悲しむ。
 家族の……母さんの悲しむ顔は、絶対に見たくない。

「できないよ」

 ママとずっと一緒にいたいと本気で思ってる。
 だけど、やっぱりできない。
 そのために赤ちゃんを殺すことは、できないんだ。
 だって。

「母さんも、夏目のじいちゃんばあちゃんも、生まれてくる赤ちゃんも、みんな、みんな、オレの大切な、本物の家族だから」
 ママを見上げた柚樹の目から、涙が伝った。

「ごめん。赤ちゃんは殺せないよ」と、柚樹は俯いた。
 涙が、ポタポタと落ちていた。

 ママを裏切ってしまったことが、すごくすごく辛かった。
 ママはオレのことを、とっても大切にしてくれたのに。
 いっぱい遊んでくれたのに。

 今だって、ピンチのオレの所に来てくれたのに……。

 大好きなのは今も変わらない。
 オレは、ママが好きだ。
 だけど。

「……ごめん、ママ」
 泣きながら謝ること以外できなくて、それが悔しくて、辛くて、悲しかった。

 ふわっと、頭にママの手が触れる感触があった。
 そのまま「ぎゅーーー」と、強く強く抱きしめられる。

「ママ?」
「よく言った! それでこそ私の子ね」
 目をはらしながら顔を上げると、ママは笑っていた。