犬になって君と過ごした『特別な時間』

 散歩を終えてから、家でのんびり過ごした。
 芽依は本を読んだり、映画を観たりしていた。
 俺は、家の中を走り回ったり、ごろんとしたり。

 芽依とこんな風に過ごせたからなのか、時間が進むのがすごく早く感じた。
 あっという間に外は暗くなってきた。

「そろそろ行こうか!」

 芽依は準備を終えると、ショルダーバッグを肩にかけた。

 そして外に出た。
 住宅街を少し歩くと、川が見えてくる。
 川沿いの道を進むと花火大会の会場があった。
 フランクフルトやフライドポテトの出店もあって、小さなお祭りのようだ。

「この辺でいっか!」

 花火がよく見えそうな、でも混みすぎているところからは少し離れた草むらの上に俺たちは座った。

 親子やカップル……少しずつ人が集まってくる。

 最初の花火が打ち上がり「綺麗だね」とか、感嘆の声で辺りがざわめく。

 川の向こう側で花火が打ち上げられている。
 空に浮かぶ花が全て綺麗に見え、川にそれが反射している。人間の目で見たのなら、きっとすごく色鮮やかに見えるのだろう。

 打ち上げられた花火たちは、輝いてはちりちりと消えてゆく。何度も何度もそれを繰り返す。

 俺はその輝きよりも、横で体育座りをしながら空を見上げている、芽衣の表情が気になった。

 彼女の瞳が輝いていた。

 花火の光が反射しているのかなと思っていたけれど、それは違った。

 涙だった――。