だれかが助けにきてくれるなんて思ってない。

あきらめて、わたしは一冴さんの言いなりになろうとしているのに。


それなのに、目をつむったらあいつの顔が勝手に浮かんでくる。


無愛想で、無表情。

だけど、たまに笑った顔を見るとこっちまでうれしくなって、ふとしたときの男らしい言動にドキッとしてしまう。


それもすべて、偽の婚約者として演じているだけだってわかってる。

わたしのことなんて、なんとも思ってないこともわかってる。


「本当はこわいんだろ?体が震えてるぞ」


わたしは一冴さんから顔を背ける。


「ほら、泣け!叫べ!そうしたら、藍が助けにきてくれるかもな」


…くるわけない。


頭ではわかっている。


それなのに、…わたしは求めてしまう。

もし、わたしをこの場所から救い出してくれる人がいるとするなら――。